最近、このような不安や疑問を持つ方は少なくありません。
生成AIの普及、行政手続きのオンライン化、そして2026年施行の改正行政書士法など、業界を取り巻く環境が大きく変わっているからです。
実際、日本行政書士会連合会が公表した改正法の要綱では、行政書士はデジタル社会の進展を踏まえ、情報通信技術の活用その他の取組を通じて、国民の利便向上や業務の改善進歩を図るよう努めることが明文化されました。
では、行政書士の仕事は本当にAIに置き換わっていくのでしょうか。
結論からいえば、行政書士の仕事が丸ごとなくなる可能性は低いと考えられます。
一方で、定型的な書類作成や単純な情報整理だけに依存する業務は、今後ますます効率化され、価格競争に巻き込まれやすくなるでしょう。
つまり、「なくなるか、なくならないか」という二択ではなく、仕事の中身と求められる価値が変わると捉えるほうが実態に近いのです。
1.2026年、行政書士業界で起きている変化
① 行政書士法改正によるデジタル対応の明文化
改正法では、行政書士の使命や職責が見直され、デジタル社会に対応した業務姿勢が制度上も明確になりました。
単なる「紙の書類を作る専門家」ではなく、デジタル化が急速に進み始め変化する行政手続きの中で、国民や事業者の利便を高める役割がより強く意識されるようになっています。
② 中小企業側のニーズの変化
中小企業庁は2026年3月10日、従来のIT導入補助金の名称を「デジタル化・AI導入補助金2026」に変更し、AIを含むITツール導入支援を打ち出しました。
これは、企業の現場でAI・DXへの関心が高まり、実際の投資対象になっていることを示しています。
中小企業は、単なる書類代行ではなく、「制度を理解しながらデジタル活用も相談できる専門家」を求める傾向を強めています。
③ 生成AIの実務利用の本格化
文章のたたき台作成、論点整理、情報収集の補助など、AIはすでに多くの士業実務で使われ始めています。
ただし、AIはあくまで補助ツールです。
法令適合性の判断、個別事情の聞き取り、申請戦略の組み立て、リスク説明といった部分は、人の経験と責任が欠かせません。
AIが得意なのは「早く整えること」であり、「正しく判断し、依頼者に応じて最適化すること」までは自動化しきれません。
行政手続きのオンライン化は、従来型業務の縮小と新たな需要の創出という両面をもたらします。
対応できる行政書士にはむしろ追い風と考えています。
2.行政書士の仕事がAIでなくならない理由
行政書士の価値は、単に書類を作ることだけではありません。
もちろん、申請書や添付資料の作成は重要です。
しかし依頼者が本当に求めているのは、「何を選ぶべきか」「どの順番で進めるべきか」「どこにリスクがあるか」を整理し、安心して前に進めることです。
たとえば、許認可の取得ひとつとっても、表面的には同じ申請に見えて、実際には事業内容、組織体制、資金計画、営業所の実態、過去の履歴などにより、必要書類も注意点も変わります。
補助金申請であれば、単に文章を整えるだけでは足りません。
事業計画の実現可能性、政策との整合、投資の必要性、採択後の交付申請や実績報告まで見据えた設計が必要です。
ここでは、テンプレートを埋める能力よりも、個別事情を読み解く力のほうが重要です。
また、依頼者の中には「自分ではどの制度を使うべきか分からない」「行政側にどう説明すればよいか不安」という方も多くいます。
この不安を整理し、選択肢を比較し、手続きを伴走するのは、まさに行政書士の役割です。
AIは情報を出せても、依頼者の背景や経営状況、将来の方向性まで踏まえた助言には限界があります。
だからこそ、行政書士の仕事は消えるのではなく、より相談型・戦略型へと進化していくと考えるべきでしょう。
行政書士の業務は書類作成だけではありません。
相談・コンサルティング・申請戦略の立案など、AIには代替できない「人間の判断と信頼関係」こそが核心で、そのために行政書士を利用していただきたいです。
3.AI時代に縮小しやすい業務と、伸びる業務
今後、縮小しやすいのは、定型化しやすく、判断の余地が少ない業務です。
たとえば、一般的な説明文の下書き作成、定型書式のたたき台、簡易な情報整理などは、AIによってかなり効率化できます。
こうした作業だけを価値として提供していると、差別化は難しくなります。
一方で、伸びやすいのは、個別性が高く、制度理解と実務判断が必要な分野です。
たとえば、外国人雇用や在留資格、各種許認可、補助金支援、事業承継、相続、契約設計、IT・DX導入を含む経営支援などは、今後も需要が見込まれます。
特に中小企業向け支援では、制度説明だけでなく、「事業拡大のために何を選ぶべきか」「いつ、どうやって進めるか」まで踏み込める専門家が強くなります。
中小企業庁がAI導入支援を含む補助制度を打ち出していることからも、制度とITをつなぐ支援の必要性は高まっているといえます。
4.行政書士はAIをどう使うべきか
これからの行政書士に必要なのは、「AIに仕事を奪われないこと」ではなく、AIを使って、より高い価値を出すことです。
たとえば、初稿作成や論点整理をAIで効率化し、その分、依頼者との面談、制度の比較検討、申請戦略の立案、採択後フォローといった高付加価値業務に時間を使う。これが理想的な活用方法です。
実務では、AIを使うほど、逆に専門家としての確認力が問われます。
AIの出力をそのまま使うのではなく、法令、通達、公募要領、自治体運用などと照合し、依頼者に合わせて調整する。
生成AIはWEB上にある情報を元に回答を作成しています。
WEB情報は最新情報ばかりではなく、古い情報も多く残っていますので、AI回答をそのまま受け入れるのは危険です。
確認の工程をきちんと踏める行政書士ほど、AI時代に強くなります。
まとめ
行政書士の仕事は、AIやデジタル化によってすべてなくなるわけではありません。
2026年施行の改正行政書士法では、デジタル社会を踏まえた情報通信技術の活用が職責として明文化され、業界全体としても変化への対応が求められています。
さらに、中小企業支援の現場では、「デジタル化・AI導入補助金2026」のように、制度面でもAI活用が前提になりつつあります。
今後、厳しくなるのは、単なる書類作成だけを提供するスタイルです。
反対に、依頼者の事情を深く理解し、制度と実務をつなぎ、経営やデジタル化まで見据えて支援できる行政書士は、むしろ選ばれやすくなるでしょう。
AI時代に求められるのは、「仕事がなくなるか」を恐れることではなく、「どんな価値を提供する行政書士になるか」を考えることです。
