資格なしでも許可は取れる。
経験の数え方・必要書類・前職での証明まで、行政書士が実務視点で徹底解説。

「施工管理技士などの資格がないと、建設業許可は取れない」——そう思い込んでいる方は少なくありません。
しかし、国家資格がなくても、10年以上の実務経験を正しく証明できれば建設業許可は取得できます。

ただし、この「実務経験10年の証明」は、建設業許可申請の中でも特に難易度が高い案件です。
10年前の請求書・通帳・注文書など膨大な書類をかき集め、月ごとに工事実績を証明しなければなりません。
書類が揃わずに許可取得を断念するケースも後を絶ちません。

本記事では、実務経験10年による建設業許可取得の仕組み・経験の数え方・必要書類・よくある落とし穴を、当事務所の実務経験をもとに詳しく解説します。

1.「実務経験10年」が必要な場面とは

建設業許可を取得するには、営業所ごとに「専任技術者」を常勤で配置することが義務付けられています(建設業法第7条第2号)。
専任技術者の要件を満たす方法は複数ありますが、最も多く使われるのが「実務経験10年以上」による証明です。

具体的には、以下のいずれにも該当しない場合に、実務経験10年の証明が必要になります。

  • 請け負う工事業種に対応した国家資格(1・2級施工管理技士、建築士、技術士など)を保有していない
  • 高校・大学・専門学校等で建設業に関連する指定学科を卒業していない

つまり「現場一筋でやってきたが資格も建築系の学歴もない」という職人・職長・現場監督の方が、10年の実務経験で専任技術者の要件を満たすパターンがこれに当たります。

📌 実務経験として認められる内容

実務経験とは、申請する建設工事業種に係る工事の施工に関する技術上の経験のことです。
役職・立場は問いません。見習い・職人・現場監督・設計技術者など、いずれの立場での経験も対象です。
ただし、申請する業種の工事に直接関わる経験であることが必要で、単なる事務作業や雑用は含まれません。

2.実務経験の「正しい数え方」3つのルール

10年経験があると思っていたのに、いざ計算したら足りなかった」というケースが多く見られます。
実務経験の数え方には明確なルールがあります。

ルール① 業種ごとに10年が必要

実務経験は申請する工事業種ごとに独立して10年が必要です。
異なる業種の経験を合算することは原則できません。

📌 よくある誤解

例:塗装工事3年+内装仕上工事7年=合計10年
 → これは認められません。業種が異なるため合算不可。どちらも独立して10年必要です。

例:塗装工事と内装仕上工事を並行して10年経験
 → どちらか一方の業種でしか専任技術者になれません。同期間での複数業種の重複カウントは不可です。

ルール② 常勤で働いていた期間しかカウントされない

実務経験は常勤として勤務していた期間のみカウントされます。
パートタイム・アルバイト・非常勤での就労期間は原則として認められません。
常勤性は、厚生年金の被保険者記録照会票や健康保険証などで証明します。

ルール③ 複数の会社・期間を合算できる

A社に5年、B社に5年、合計10年という形で、複数の会社や個人事業主としての期間を合算することは認められています。
ただし、それぞれの期間について工事実績と常勤性を別々に証明しなければなりません。

📌 東京都の実務経験の数え方

東京都知事許可の場合、実務経験の証明は「3か月に1件以上の工事実績を証明する」方法が一般的です。
10年(120か月)分、各月に最低1件の工事を証明できる書類が必要となります。
つまり、最低でも40件以上の工事実績の証明書類が求められる計算になります。

3.実務経験を短縮できるケース(指定学科卒業)

指定学科を卒業している場合、必要な実務経験年数が短縮されます。
学歴・卒業学科を今一度確認しておきましょう。

学歴卒業学科の条件必要な実務経験
大学・高等専門学校(高専)卒建設業に関連する指定学科卒業後 3年以上
高等学校・中等教育学校卒建設業に関連する指定学科卒業後 5年以上
専門学校卒(専門士・高度専門士)建設業に関連する指定学科卒業後 3年または5年
上記以外(学歴・資格なし)10年以上

「指定学科」とは、業種ごとに国土交通省が定めるもので、土木工学・建築学・機械工学・電気工学・都市工学などが代表例です。
たとえば「高校の土木科を卒業して5年以上大工工事をやってきた」という方は、5年の実務経験で専任技術者の要件を満たせる場合があります。
卒業証明書や成績証明書で学科の確認ができます。

📌 指定学科かどうかの確認が重要

「建築学科なら全部OK」ではありません。
業種と学科の対応関係は国土交通省の「指定学科一覧」で確認が必要です。
申請業種によっては指定学科に該当しないケースもあります。
不明な場合は専門家、行政庁に確認することをおすすめします。

4.証明に必要な書類の全体像

実務経験10年の証明には、大きく分けて「①工事実績の証明書類」と「②常勤性の証明書類」の2種類が必要です。

書類①:工事実績の証明書類(月ごとに1件以上・10年分)

  • 請求書+通帳の入金記録のセット
    ★東京都で最もよく使われる証明方法。請求書と対応する入金が確認できれば有効。
  • 注文書(発注書)+請書のセット
    注文書と請書が対になっているもの。日付・工事名・金額が明記されていること。
  • 工事請負契約書
    契約書がある場合は最も証明力が高い。ただし小規模工事では存在しない場合が多い。
  • 工事台帳・施工台帳
    自社が許可業者であった場合、工事台帳が代替証明として使えるケースがある。

書類②:常勤性の証明書類(在籍期間全体をカバー)

  • 厚生年金被保険者記録照会回答票(年金事務所で取得)
    ★最も信頼性が高い。年金事務所に請求することで取得可能。
  • 健康保険被保険者証(保険証)のコピー
    在籍期間の証明として有効。ただし退職後は手元にない場合が多い。
  • 源泉徴収票
    年単位での在籍証明として使用。月単位の証明には追加書類が必要。
  • 住民税の特別徴収通知書(給与天引きの証明)
    自社での現在の常勤性証明として有効。

書類③:実務経験証明書(法定様式第9号)

  • 実務経験証明書(様式第9号)
    実務経験の期間・業種・使用者(会社名)を記載する法定書式。
  • 使用者(現または前の会社)の証明・押印
    令和3年以降、押印義務は廃止されたが、使用者の確認を求める自治体もある。
📌 書類の量は膨大になる

東京都の場合、10年(120か月)分・3ヶ月毎に1件以上の工事実績を証明する必要があります。
請求書+通帳のセットで証明する場合、書類が100〜200枚以上になることも珍しくありません。
これを時系列に整理してまとめる作業は非常に手間がかかります
※行政書士の報酬も高くなる傾向があります。

5.前職・他社での経験を証明するには

最も難関となるのが、「過去に在籍していた会社での実務経験」の証明です。
現在の会社や個人事業主としての経験だけで10年に届かない場合、前職での経験を合算することになりますが、これには独特の難しさ(喧嘩して退職したなど)があります。

前職の会社が「建設業許可業者」だった場合

前職の会社が建設業許可を取得していた場合、自治体によっては工事実績の証明書類(請求書・注文書など)の提出を省略できるケースがあります。
この場合、前職会社の登記簿謄本・決算変更届の写しなどで許可の存在を確認することで、実務経験の証明が簡略化される場合があります。
事前に申請先の自治体窓口で確認しておきましょう。

前職の会社が廃業・倒産している場合

前職の会社が廃業や倒産している場合は、書類の入手が難しくなります。
このような場合でも、厚生年金被保険者記録照会票(常勤性の証明)と、当時の工事に関連する書類(自分で保管していた請求書控え・写真・名刺など)を組み合わせて対応できる可能性があります。
対処法は自治体によって異なるため、早めに相談することが重要です。

📌 実務経験証明書への押印について

令和3年(2021年)の建設業法改正により、実務経験証明書への押印義務は廃止されました。
ただし、前職の会社が証明者として名前を記載することは引き続き必要で、自治体によっては確認の書類を求める場合もあります。

6.「よくある落とし穴」と対処法

当事務所が手がけた案件の中で、特によく見られる失敗パターンをご紹介します。
申請前に必ず確認してください。

落とし穴① 業種が違う経験を合算してしまう

「10年以上、ずっと建設業をやってきた」という感覚でも、実際には複数の業種にまたがっており、一つの業種では10年に届かないケースがあります。
申請したい業種に絞って経験を整理し直すことが必要です。

落とし穴② 証明書類が途中で途切れる

途中の数か月分について請求書も注文書も残っていないため、実務経験に「穴」が開いてしまうことがあります。
1か月でも証明できない期間があると、その前後が分断されてしまいます。
できるだけ書類の保管状況を先に確認することが重要です。
税理士から書類は7年保存と指導されている場合もよくありますが、建設業許可では10年の証明が原則です。

落とし穴③ 常勤性が証明できない期間がある

10年以上前のことになると、社会保険に加入していなかった期間がある場合があります。
厚生年金の記録がない期間は常勤性の証明が難しくなり、その期間の実務経験がカウントできないケースがあります。

  • 「10年の経験がある」という自己申告だけでは証明にならない
  • 異なる業種の経験を合算しても10年にはならない
  • 並行して複数業種の経験を積んでも、両方に使い回すことはできない
  • 書類の「穴」がある場合、その前後で経験が分断される
  • 社会保険未加入期間は常勤性証明ができず経験年数に含めにくい

📌 当事務所からのアドバイス

実務経験10年の証明は、「書類が揃っているか」「常勤性が証明できるか」「業種が一致しているか」の3点を事前に確認することから始まります。
当事務所では初回相談(無料)の段階で、お持ちの書類の状況をヒアリングし、許可取得の可能性と進め方をご提案しています。
「諦めていた」という方が許可取得できたケースも多くあります。
まずはご相談ください。

まとめ

  • 国家資格がなくても、10年以上の実務経験を正しく証明すれば専任技術者の要件を満たし、建設業許可を取得できます
  • 実務経験は「申請業種ごと」に10年が必要。異なる業種の経験を合算することは原則できません
  • 経験は常勤性がある期間のみカウント。複数会社の経験は合算可能ですが、それぞれ別々に証明が必要です
  • 証明書類は①工事実績(請求書・注文書など月1件以上×10年分) ②常勤性(厚生年金記録など) ③実務経験証明書の3種類が必要です
  • 指定学科の卒業がある場合、必要な実務経験が3年または5年に短縮されます
  • 前職・過去の会社での経験証明が必要な場合や書類が不完全な場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします