「専任技術者が突然退職することになった」「病気で長期入院になり、現場復帰の見通しが立たない」
——建設業許可を維持している会社にとって、専任技術者の不在は許可失効に直結する最大の危機です。
専任技術者に変更が生じた場合、建設業法上14日以内に変更届を提出する義務があります。
しかも、後任の専任技術者が見つかるまでの空白期間は1日も許されません。
後任なしで空白期間が生じた瞬間、その業種の許可は要件を失い、500万円以上の工事を受注することが建設業法違反となります。
本記事では、専任技術者が退職・不在になった場合の即時対処フロー・後任の探し方・変更届の手続きと必要書類・後任が見つからない場合の選択肢・平時の備え方まで、行政書士が実務視点で解説します。
1.専任技術者とは?その役割と重要性
専任技術者(営業所技術者等)とは、建設工事の請負契約を適正に締結し、その履行を確保するために営業所ごとに常勤配置が義務付けられた技術者です(建設業法第7条第2号)。
工事現場に出る「主任技術者・監理技術者」とは異なり、営業所に常駐して見積・契約・技術的なバックアップを担う役割です。
専任技術者の要件を満たすのは、許可を受けた工事業種に対応した国家資格保有者(施工管理技士・建築士など)または10年以上の実務経験者です。
建設業許可は「この専任技術者がいるから許可を出している」という性格を持つため、専任技術者が不在になった瞬間、その業種の許可要件は失われます。
専任技術者が不在の状態で500万円以上の工事(建築一式は1,500万円以上)を請け負うことは無許可営業にあたり、建設業法違反です。
3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人は1億円以下の罰金)が科される可能性があります。
許可要件を欠いた状態を放置することは、会社の存続に関わるリスクです。
2.退職・不在が発生したときの即時対処フロー
専任技術者の退職・不在が発覚したら、以下のフローで速やかに対応してください。時間との勝負です。
退職が決まった当日に動き始める
退職・不在の事実を把握する退職予定日・入院期間など、いつから専任技術者が不在になるかを確認します。
退職が決まった段階で、後任の確保と変更届の準備を同時並行でスタートします。
「退職日が決まってから考える」では遅すぎます。社内確認リストを作成
社内で後任候補を探す全従業員の資格・学歴・実務経験年数を洗い出し、専任技術者の要件を満たせる人物がいないか確認します。
詳しい探し方は次のセクションで解説します。変更日から14日以内が法定期限
後任が決まり次第、変更届を提出する後任の専任技術者が決まったら、変更が生じた日から14日以内に変更届出書を提出します(建設業法施行規則第7条の3)。
書類収集に時間がかかるため、後任が決まったらすぐに書類準備を開始してください。放置は建設業法違反。速やかに届け出を
後任が見つからない場合は廃業届を提出する社内外を探しても後任が確保できない場合は、そのまま放置してはいけません。
要件を欠いた旨を速やかに届け出(廃業届・欠員届)し、許可を一時返上する対応が必要です。
詳しくはセクション5で解説します。
変更届の様式自体はシンプルですが、後任の専任技術者の資格証明書・常勤性の証明書類・実務経験証明書(資格なしの場合)などを揃えるのに数日〜1週間程度かかります。
退職日が確定した段階で直ちに書類準備を開始しないと、14日の期限に間に合わないリスクがあります。
3.後任の専任技術者を社内で探す方法
後任探しは「社内」から始めることが原則です。
外部採用には時間がかかり、入社日前の空白期間が生じるリスクがあるためです。
以下の順番で確認を進めてください。
- 全従業員の保有資格を一覧化する
施工管理技士・建築士・電気工事士・土木施工管理技士など、許可業種に対応する国家資格の保有者がいないか全員分を確認します。
資格証の写しを集め、対応業種との照合を行います。
資格さえあれば最もスムーズに後任になれます。 - 指定学科の卒業者を確認する
建築学科・土木学科・機械工学科など指定学科を卒業した従業員がいる場合、大卒なら3年以上、高卒なら5年以上の実務経験で専任技術者の要件を満たせる可能性があります。
最初の許可取得日から逆算して経験年数を確認します。 - 10年以上の実務経験者を確認する
資格も指定学科卒業もない場合でも、許可業種に関連する工事で10年以上の実務経験がある従業員がいれば専任技術者になれます。
ただし、10年分の工事実績証明書類が必要で、確認と準備に時間がかかります。 - 社長・役員自身が要件を満たさないか確認する
従業員に該当者がいない場合、社長や他の役員が専任技術者の要件を満たしている可能性があります。
経営業務管理責任者と専任技術者を同一人物が兼任することは認められています。
後任が社内で見つかった場合は空白期間ゼロで移行ができますが、見つからなかった場合は、外部採用を急ぐか、または廃業届の提出を検討します。
採用活動中に空白期間が生じる場合は、その間の500万円以上の工事の受注を停止する必要があります。
外部採用で後任を確保する場合、採用候補者の入社日が現専任技術者の退職日以前であることが必要です。
退職日の翌日以降に入社すると、その間に空白期間が生じ、許可要件を欠いた状態となります。
採用活動は余裕をもって早めに開始することが不可欠です。
4.変更届の手続きと必要書類(東京都の場合)
後任の専任技術者が確保できたら、変更が生じた日から14日以内に東京都庁へ変更届出書を提出します。
📁 変更届の基本書類(前任者の退職+後任者の就任)
- 変更届出書第一面
変更の種類・変更年月日・変更前後の内容を記載 - 専任技術者証明書
★ 後任の専任技術者の氏名・業種・資格区分・在籍期間等を記載する中心書類 - 専任技術者一覧表
変更後の専任技術者全員の一覧を更新
📁 後任の専任技術者の「要件証明書類」
- 【資格で証明する場合】資格証明書のコピー(施工管理技士合格証・建築士免許証など)
★ 原本の提示も必要。最もシンプルで迅速に対応できる方法。 - 【指定学科卒業+実務経験で証明する場合】卒業証明書+実務経験証明書
卒業証明書は学校が発行するもの。実務経験証明書は使用者が証明する。 - 【10年実務経験で証明する場合】実務経験証明書+工事実績証明書類
請求書・注文書・通帳など10年×月1件以上の実績証明が必要。書類準備に最も時間がかかる。
📁 後任の「常勤性の証明書類」
- 標準報酬月額決定通知書または住民税特別徴収通知書
マイナ保険証移行後の現在は、標準報酬月額決定通知書が常勤性の主な証明書類となっています - 雇用保険被保険者証または雇用保険資格取得確認通知書
外部採用者の場合、入社後速やかに雇用保険の手続きを行い書類を取得する
資格がなく10年の実務経験で後任を証明する場合、書類収集に数週間以上かかることがあります。
14日という法定期限内に間に合わない場合は、まず期限内に変更届出書だけを提出し、後から確認書類を補完提出する対応について、申請先の建設業課に事前に相談することをおすすめします。
5.後任が見つからない場合の3つの選択肢
社内外を探しても後任の専任技術者が確保できない場合でも、何もしないで放置することは避けてください。
状況に応じて以下の3つの対応を検討してください。
選択肢① 一部廃業届を提出する(後任がいない業種のみ)
複数業種の許可を持っている場合、後任が見つからない業種の許可のみを返上(一部廃業)することができます。
後任が確保できている他の業種の許可は維持されるため、残りの業種での営業は継続可能です。
一部廃業後、後任が確保できた段階で業種追加の申請を行います。
ただし、業種追加は新規申請に準じる手続きが必要です。
選択肢② 全部廃業届を提出し、後任確保後に再申請する
後任が見つかるまでの間、全業種の許可を一時的に返上します。
この場合、会社自体が廃業するわけではなく、「建設業許可を一時的に返上する」という意味です。
許可返上後は500万円未満の軽微な工事のみ受注でき、500万円以上の工事は受注停止となります。
後任が確保できた時点で改めて新規申請します。
選択肢③ 外部採用を急ぎ、空白期間を最小化する
採用活動を並行して進め、できる限り空白期間を短くします。
ただし、外部採用者の入社日が退職者の退職日を超えた場合は、その間の空白期間が生じます。
空白期間中は500万円以上の工事の受注を控えることが必要です。
専任技術者が欠けた場合、その日から2週間以内に欠員が生じた旨を届け出る義務があります(建設業法第11条第4項)。
廃業届の提出が遅れると、無許可営業状態が続いたとみなされるリスクがあります。
「後任が見つかるまで、とりあえず黙って500万円以上の工事を受け続ける」という対応は、建設業法違反(無許可営業)に当たります。
発覚した場合、行政処分・刑事罰の対象となるだけでなく、元請業者からの信頼を失い、取引停止になるリスクもあります。
その後の新規取得も難しくなりますので、状況が悪化する前に、必ず届け出と適切な対応を取ってください。
6.専任技術者リスクをゼロにする「平時の備え」
専任技術者の退職は突然やってきます。「そのとき考えれば良い」では対応が間に合いません。
以下の備えを平時から整えておくことが、許可を安定的に維持するための最善策です。
- 全従業員の資格・学歴・実務経験を一覧化して管理する
——資格の更新期限も含めて一覧表を作成し、年に1回見直す。有資格者が複数いる体制を目指す - 専任技術者を一人に依存しない体制をつくる
——資格取得を会社として奨励・支援し、後任候補を常に2名以上確保しておく。資格取得費用の会社負担は人材定着にもつながる - 退職の兆候を早めにキャッチする
——専任技術者との定期的な面談を通じて、転職・退職の意向を早期に把握する。突然の退職より余裕をもった引き継ぎの方が対応しやすい - 行政書士と顧問契約を結ぶ
——専任技術者の変更・その他の変更届・決算変更届・更新申請まで一括して任せることで、管理の抜け漏れをゼロにできる
行政書士飯島事務所では、専任技術者の変更届の緊急対応から後任候補の要件確認、外部採用者の書類準備サポートまで対応しています。
「今すぐ動かなければならない」という緊急案件も歓迎です。初回相談は無料ですので、まずはお電話またはメールでご連絡ください。
まとめ
- 専任技術者が退職・不在になると、その業種の許可要件を欠く状態となり、500万円以上の工事受注が建設業法違反になります
- 変更が生じた日から14日以内に変更届出書を提出する義務があります。後任確保と書類準備は退職決定と同時に動き始めることが必須です
- 後任の探し方は ①社内の有資格者 ②指定学科卒業者 ③10年実務経験者④社長・役員の順で確認します
- 変更届には専任技術者証明書・資格証明書類・常勤性の証明書類が必要です
- 後任が見つからない場合は「一部廃業届」または「全部廃業届+再申請」を速やかに選択します。放置は厳禁です
- 平時から有資格者を複数確保し、専任技術者を一人に依存しない体制を整えることが最善の対策です