建設業許可は「取得してからが本番」です
建設業許可を取得した事業者の方から、こんな声をいただくことがあります。
「許可を取ったら一安心、あとは工事を受注するだけですよね?」
残念ながら、それは少し違います、安心するのはまだ早いです!
建設業許可を取得した業者(以下「許可業者」)には、許可取得後も建設業法に基づく様々な義務が課されています。
これらの義務を怠ると、行政庁からの指示・営業停止・許可取消といった監督処分の対象になる可能性があります。
この記事では、許可業者が日常業務の中で守らなければならない主要な義務について、実務に携わる行政書士の立場から詳しく解説します。
許可業者に課される主な義務の全体像
建設業法が許可業者に課す義務は、大きく以下の5つに分類できます。
| 義務の種類 | 根拠条文 | 概要 |
|---|---|---|
| 標識の掲示 | 建設業法第40条 | 営業所・工事現場への許可票の掲示 |
| 帳簿の備付け・保存 | 建設業法第40条の3 | 工事・請負契約に関する帳簿の作成・保存 |
| 契約書面の交付 | 建設業法第19条 | 請負契約の締結時に書面を交付する義務 |
| 変更届・決算変更届の提出 | 建設業法第11条 | 許可内容の変更や決算後の届出 |
| 施工体制台帳・施工体系図の作成 | 建設業法第24条の8 | 特定の工事における施工管理書類の作成 |
本記事では、特に現場での実務に直結する①標識の掲示、②帳簿の備付け、③契約書面の交付の3つを中心に解説します。
①標識の掲示義務(建設業法第40条)
どこに掲示が必要か
許可業者は、以下の2か所に**建設業の許可票(標識)**を掲示しなければなりません。
| 掲示場所 | 詳細 |
|---|---|
| 主たる営業所・従たる営業所 | すべての営業所に掲示が必要 |
| 建設工事の現場 | 施工中のすべての工事現場に掲示が必要 |
標識に記載すべき内容
許可票には、以下の事項を記載する必要があります。
- 一般建設業・特定建設業の別
- 許可年月日・許可番号・許可を受けた建設業の種類
- 商号または名称
- 代表者の氏名
- 主任技術者または監理技術者の氏名(工事現場の場合)
標識のサイズ・材質
標識のサイズは
営業所(店舗):縦35cm以上×横40cm以上
工事現場:縦25cm以上×横35cm以上
と定められています。
材質の規定はありませんが、耐久性のある素材(金属板・プラスチック板など)を使用するのが一般的です。
注意
営業所の標識と工事現場の標識は記載内容が一部異なります。
工事現場用には「主任技術者または監理技術者の氏名」の記載が追加で必要です。
技術者が交代した場合は、標識の表示も更新してください。
②帳簿の備付け・保存義務(建設業法第40条の3)
帳簿に記載すべき事項
許可業者は、営業所ごとに請負契約に関する帳簿(工事台帳)を備付け、以下の事項を記録しなければなりません。
- 営業所の名称・所在地
- 請負契約の年月日・工事名・工事現場の所在地
- 注文者の商号・名称・住所
- 請負代金の額
- 工事着工年月日・工事完成年月日
- 主任技術者・監理技術者の氏名・資格区分
- 下請業者の商号・名称(下請契約を締結した場合)
保存期間
帳簿は、各事業年度の終了後から5年間保存する義務があります(発注者が個人の住宅工事に係るものは10年間)。
また、帳簿と合わせて契約書・注文書・請書などの関係書類も保存しておく必要があります。
これらは行政庁の立入検査の際に確認されることがあります。
実務ポイント
帳簿は紙でも電子データでも構いません。
専用のソフトウェアや表計算ソフトで工事台帳を管理している業者も多く、重要なのは「いつでも提示できる状態に保っておくこと」です。
③契約書面の交付義務(建設業法第19条)
建設業法では、建設工事の請負契約を締結する際に、一定の事項を記載した書面を相互に交付することを義務付けています(建設業法第19条第1項)。
「口約束だけで工事を始める」「発注書だけで契約している」というケースは、建設業法違反になります。
契約書面に記載が必要な14項目
| 記載事項 |
|---|
| 1 工事内容 |
| 2 請負代金の額 |
| 3 工事着手の時期・工事完成の時期 |
| 4 請負代金の支払の時期・方法 |
| 5 設計変更・工事着手の延期・工事中止の申出があった場合の措置 |
| 6 天災その他不可抗力による工期変更・損害の負担とその算定方法 |
| 7 価格等の変動・変更に基づく請負代金の額・工事内容の変更 |
| 8 工事の施工により第三者が損害を受けた場合の賠償金負担 |
| 9 注文者が工事に使用する資材・建設機械等を提供する場合の内容・方法 |
| 10 注文者が工事の全部・一部の完成を確認するための検査の時期・方法 |
| 11 工事完成後における請負代金の支払の時期・方法 |
| 12 工事の目的物が種類・品質に関して契約内容に適合しない場合の処置 |
| 13 各当事者の履行の遅滞・その他債務不履行の場合の遅延利息・違約金 |
| 14 契約に関する紛争の解決方法 |
変更契約も書面が必要
工事の途中で設計変更・追加工事・工期変更が生じた場合も、変更内容を書面で取り交わすことが義務付けられています(建設業法第19条第2項)。
「口頭で変更の了承を得た」だけでは不十分です。
追加工事の代金や工期の変更は、必ず書面に残してください。
実務ポイント
契約書面は、標準的な「工事請負契約書」の書式を使用することが一般的です。
中央建設業審議会が作成した標準約款(民間工事用・公共工事用)を活用すると、14項目の記載漏れを防ぐことができます。
義務違反があった場合の監督処分
これらの義務に違反した場合、都道府県知事または国土交通大臣から以下の処分を受ける可能性があります。
| 処分の種類 | 内容 |
|---|---|
| 指示処分 | 違反状態の是正を命じる処分。最も軽い処分。 |
| 営業停止処分 | 一定期間、建設業の営業を停止させる処分(最長1年)。 |
| 許可取消処分 | 建設業許可そのものを取り消す最も重い処分。 |
また、標識の不掲示・帳簿の未備付け・契約書面の不交付については、10万円以下の過料(行政罰)が科される規定もあります(建設業法第55条)。
まとめ:許可取得後の義務管理チェックリスト
許可業者が日常的に確認すべきポイントを整理します。
【営業所の管理】
- ✅ 許可票が営業所の見やすい場所に掲示されているか
- ✅ 帳簿(工事台帳)を営業所ごとに備え付けているか
- ✅ 過去5年分(住宅工事は10年分)の帳簿・契約書類が保存されているか
【工事現場の管理】
- ✅ 工事現場に技術者氏名入りの許可票を掲示しているか
- ✅ 主任技術者・監理技術者を適切に配置しているか
【契約管理】
- ✅ 請負契約締結時に14項目を記載した書面を交付しているか
- ✅ 設計変更・追加工事が生じた際に変更契約書を締結しているか
【届出管理】
- ✅ 決算変更届を毎年提出しているか
- ✅ 役員・専任技術者等の変更が生じた際に変更届を提出しているか
許可取得後の義務は多岐にわたりますが、一つひとつを確実に管理することが、監督処分リスクの回避と取引先からの信頼確保につながります。
