「退職の翌日から時計が動き始める」──対応が遅れると免許停止も
不動産会社の経営者にとって、専任の宅地建物取引士(以下、専任宅建士)の突然の退職ほど頭を抱える事態はありません。
「まず後任を探してから手続きしよう」「引き継ぎが終わってから届け出ればいい」
──そのような判断が、気づかないうちに宅建業法違反を生んでいることがあります。
専任宅建士が退職・辞任した場合、宅建業者には2つの法定期限が課されます。
| 対応事項 | 期限 |
|---|---|
| 専任宅建士の補充(欠員が生じた場合) | 退職日から2週間以内 |
| 行政庁への変更届の提出 | 変更が生じた日から30日以内 |
この2つを混同したり、どちらかを失念したりするケースが実務では後を絶ちません。
この記事では、専任宅建士の退職・辞任が発生した際に宅建業者が取るべき手順を、期限・書類・リスクの観点から整理します。
まず確認:専任宅建士が「欠けた」状態とは何か
宅建業法第31条の3では、事務所ごとに宅建業の業務に従事する者5名に1名以上の割合で専任宅建士を置くことが義務付けられています。
専任宅建士が退職・辞任して、この割合を下回った状態が「欠けた」状態です。
例:
- 従業員5名の事務所 → 専任宅建士1名が必要。その1名が退職 → 即「欠けた」状態
- 従業員10名の事務所 → 専任宅建士2名が必要。1名退職で1名になる → 「欠けた」状態
なお、専任宅建士の退職に伴い従業員数も変動し、結果として割合を満たす場合(例:従業員数も減少した場合)は「欠けた」状態に該当しないこともあります。
ただし、変更届の提出義務は別途生じます。
期限①:欠員が生じたら「2週間以内」に補充措置を
宅建業法第31条の3第2項により、専任宅建士が欠けた場合は、2週間以内に補充するなどの必要な措置を講じなければなりません。
「補充するなどの必要な措置」には以下が含まれます。
- 新たな専任宅建士を採用・就任させる(最も基本的な対応)
- 宅建業の従事者数を減らすことで基準を満たす人員構成に変更する
- 行政庁に補充の見込みと対応計画を事前相談する
2週間を超えた状態が続くと、宅建業法違反として行政指導・業務停止処分の対象となる可能性があります。
実際に都道府県が公表している監督処分一覧では、「専任宅建士の未設置」を理由とした業務停止処分事例が毎年複数確認されています。
⚠️ 絶対にやってはいけない「名義貸し」
後任が決まらないまま、退職した専任宅建士の名前を登録に残し続ける「名義貸し」は、宅建業法第13条違反の重大な違反行為です。
内部通報により発覚するケースも多く、発覚時は免許取消処分の対象となりえます。「バレなければいい」という判断は絶対に避けてください。
期限②:変更届は「30日以内」に提出
専任宅建士の変更(退職・就任)があった場合、宅建業者は免許権者(都道府県知事または国土交通大臣)に対し、変更の日から30日以内に変更届を提出しなければなりません(宅建業法第9条)。
補充が完了した場合は、退任の変更届と就任の変更届を合わせて(または順次)提出します。
提出書類(退任の場合)
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 宅地建物取引業者名簿登載事項変更届出書 | 変更事項(退任した専任宅建士の氏名等)を記入 |
| 専任の取引士設置証明書 | 退任後も設置義務を満たしていることを証明 |
保証協会(全宅連・全日)に加入している業者は、行政庁への届出とは別に、保証協会へも同様の変更手続きが必要です。
忘れがちなポイントなので注意してください。
業者の手続きと「宅建士個人の手続き」は別物
ここで多くの業者が見落としがちな重要事項があります。
宅建業者が行政庁に提出する変更届と、宅建士個人が都道府県に申請する「変更登録申請」は、まったく別の手続きです。
宅地建物取引業者が行う専任の取引士等の就任・退任に伴う変更届により、取引士個人の登録簿の内容が自動的に変更されることはありません。
つまり、業者が変更届を出しても、退職した宅建士の登録簿には前の勤務先が残り続けます。
これが解消されないと、次の会社で専任宅建士として就任できないという事態が生じます。
手続きの順序(退職のケース)
① 業者が変更届を行政庁・保証協会へ提出(退職から30日以内)
↓
② 退職した宅建士個人が変更登録申請を提出(遅滞なく)
↓
③ 新たな就任先の業者が就任の変更届を提出(就任から30日以内)
①が完了してから②→③の順で進めることが必要で、②をせずに③だけ行っても受理されません。
就任側(新たな専任宅建士を迎える)の手続き
新たな専任宅建士を迎える場合は、退任手続きと逆の順序で進めます。
ステップ1:宅建士個人が変更登録申請を先に完了させる
新しい専任宅建士は、前の勤務先からの変更登録申請を済ませ、勤務先の登録を「空白」にしておく必要があります。
この手続きが完了してから、就任先の業者の変更届手続きに進みます。
ステップ2:業者が変更届を提出(就任から30日以内)
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 宅地建物取引業者名簿登載事項変更届出書 | 就任した専任宅建士の氏名・登録番号等を記入 |
| 宅地建物取引士証のコピー | 有効な宅建士証の確認 |
| 専任の取引士設置証明書 | 就任後の設置義務充足を証明 |
「2週間を超えてしまった」場合の対処
やむを得ない事情で2週間以内に補充できなかった場合は、放置せず速やかに行政庁へ相談することが重要です。
対応計画(採用活動の状況・見込み時期)を示すことで、行政庁からの理解を得られるケースもあります。
また、東京都のケースでは、免許更新時に専任宅建士が不在だった期間について「始末書」の提出を求められる場合もあります。
いずれにせよ、欠員状態のまま宅建業務(重要事項説明・契約締結)を継続することは、宅建業法違反です。
チェックリスト:専任宅建士が退職・辞任したときにやること
以下を担当者に共有しておくと、いざというときに役立ちます。
【業者側の対応】
- 退職日・辞任日を確認し、カレンダーに2週間後・30日後を記入する
- 欠員が生じる場合、2週間以内の補充計画を立てる
- 行政庁・保証協会への変更届の書類を準備する(30日以内に提出)
- 補充する宅建士の変更登録申請が完了しているか確認する
- 就任後30日以内に就任の変更届を提出する
【宅建士個人側の対応(退職者自身が行うこと)】
- 資格登録のある都道府県へ変更登録申請を提出する(遅滞なく)
- 次の勤務先への専任就任前に、勤務先登録が空白になっているか確認する
行政書士からのアドバイス
専任宅建士の変更手続きは、業者側と個人側で2つの手続きが並走する構造になっています。
どちらか一方を怠ると、次の就任手続きが詰まるだけでなく、行政庁からの指導・処分につながるリスクがあります。
特に人員が少ない小規模業者では、専任宅建士が1名のみというケースも多く、退職が即「欠員」につながります。
日ごろから複数の有資格者育成や宅建士証有効期限の一元管理を合わせて整備しておくことが、免許を守る最善策です。
変更届の書類作成・提出代行、後任宅建士の要件確認など、お困りの場合はお気軽にご相談ください。
まとめ
- 専任宅建士が退職・辞任し欠員が生じた場合、2週間以内に補充が必要(宅建業法第31条の3)
- 変更届は変更から30日以内に行政庁・保証協会へ提出(宅建業法第9条)
- 業者の変更届と宅建士個人の変更登録申請は別手続き。自動的に連動しない
- 退任→個人の変更登録→就任の変更届の順序を守ることが手続きのポイント
- 欠員状態での宅建業務は宅建業法違反。名義貸しは免許取消の対象
- 補充が困難な場合は速やかに行政庁へ事前相談することが重要
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