「必要性はわかっている。でも、進まない」
サイバー攻撃の脅威や被害事例を知り、「対策が必要だ」と頭では理解している経営者の方は少なくないと思われます。
それでも実際には手が回らない
——この「わかっているのに進まない」状態には、いくつかの共通した原因があると考えられます。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」では、2021年度調査と比べて対策の実施状況の改善はわずかであり、さらなる対策の必要性の訴求や、実践に向けた支援の必要性が明らかになったと報告されています。
本記事では、対策が進まない背景を「予算」「人材」「意識」の3つの壁に分けて整理し、それぞれをどう乗り越えるかを、補助金や外部支援の活用を含めて考えます。
壁1:予算の壁——「お金をかけられない」
最初の壁は費用です。
IPAの実態調査の概要資料によると、情報セキュリティ対策投資について、全体の約7割が「投資していない」または「わからない」と回答したと報告されています。
中小企業にとって、効果が見えにくいセキュリティへの投資は後回しになりがちです。
しかし前提として、被害が起きた場合の損失は決して小さくありません。
IPAの調査では、サイバーインシデントの被害額の平均は73万円(うち9.4%は100万円以上)と報告されており、警察庁の資料ではランサムウェア被害で復旧に1000万円以上を要したケースも少なくないとされています。
突破法:補助金で初期負担を軽くする
予算の壁を越える有力な選択肢が、補助金の活用です。
中小企業のサイバーセキュリティ対策を後押しする制度として、デジタル化・AI導入補助金(旧 IT導入補助金)の「セキュリティ対策推進枠」が知られています。
この枠は、IPAが認定・公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されたサービスの利用料を補助する仕組みです。
2026年度の内容としては、補助上限額150万円・補助下限額5万円、補助率は1/2以内(小規模事業者は2/3以内)とされ、サービス利用料は最大2年分が対象になるとされています。
「お助け隊サービス」は、見守り・駆けつけ・相談などをパッケージ化した中小企業向けのサービスで、自社に専門人材がいなくても外部の支援を受けながら対策を進められる点が特徴とされています。
壁2:人材の壁——「詳しい人がいない」
2つ目は人材です。
IPAの調査に関連する解説では、約7割の中小企業で情報セキュリティの専任担当者や専門部署が存在しないと指摘されています。
担当者が不在であれば、脆弱性への対応やアカウント管理が後手に回りやすく、攻撃者にとって入りやすい環境が生まれてしまうおそれがあります。
突破法:外部の力と公的支援を組み合わせる
人材不足は、すべてを自社で抱え込まずに外部の力を借りるという形で和らげられる可能性があります。
前述の「サイバーセキュリティお助け隊サービス」のように、監視や相談を外部に委ねられるサービスは、専任担当者を置けない企業の現実的な選択肢になり得ます。
また、公的な相談窓口も用意されています。
IPAは中小企業向けの相談対応を行っているほか、各地のよろず支援拠点、商工会・商工会議所、ITコーディネーターなどの支援機関に相談することで、自社の課題整理を図る方法もあるとされています。
補助金の申請にあたっては、経済産業省に登録された「IT導入支援事業者」との連携が必須とされており、ここでも外部の専門家を巻き込む形になります。
壁3:意識の壁——「自社は大丈夫だと思っている」
3つ目は、組織内の意識です。
「うちは狙われない」「直接被害を受けたことがない」という認識のもとでは、対策の優先度が上がりにくくなります。
IPAの過去の事例集でも、直接の被害経験がないために従業員のセキュリティ意識が低いと感じられる、という中小企業の声が紹介されています。
しかし実際には、被害は規模を問わず発生しており、取引先を経由した攻撃や、自社が踏み台にされるリスクも指摘されています。
意識の壁は、最も根が深く、同時に費用をかけずに着手できる領域でもあります。
突破法:「自己宣言」と「体験型の教育」から始める
意識を変える第一歩として、IPAが推進する「SECURITY ACTION」(情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言する制度)があります。
費用をかけずに取り組め、「★一つ星」または「★★二つ星」の宣言は、前述の補助金申請の要件にもなっています。
宣言に向けて自社の状況を点検する過程そのものが、意識づけにつながると考えられます。
なお、SECURITY ACTIONは2026年4月に新しい管理システムへ移行しており、申請にはGビズIDプライムまたはメンバーのアカウントが必要とされています。
手続きの方法が変わっている点に注意が必要です。
加えて、IPAの事例集では、標的型メールを模擬した訓練など、従業員が体験を通じて学ぶ取り組みが推奨されています。
座学だけでなく「実際に体験する」ことが、意識の定着に有効だとされています。
3つの壁は「つながっている」
ここまで予算・人材・意識を分けて見てきましたが、これらは独立した問題ではなく、相互に関係していると考えられます。
意識が低いから予算がつかず、予算がないから人材も外部支援も入れられず、結果として対策が進まない
——こうした悪循環に陥りやすい構造があります。
逆に言えば、どこか一点から好循環を生み出すことも可能です。
たとえば「SECURITY ACTIONの宣言(意識)」→「補助金を使ったお助け隊サービスの導入(予算・人材)」という流れは、3つの壁を連動して越える現実的なルートの一つだと考えられます。
まずは「申請の前提」を整えることから
補助金の活用を視野に入れる場合、申請にはいくつかの事前準備が必要です。
具体的には、GビズIDプライムアカウントの取得、SECURITY ACTIONの宣言、IT導入支援事業者との連携、事業計画の明確化などが挙げられます。
GビズIDの取得には一定の期間(おおむね数週間程度とされます)を要する場合があるため、余裕を持った準備が望ましいと考えられます。
また、公募には締切が設けられており、年度内に複数回の公募が予定されることが一般的です。
最新の公募スケジュールや要件は変更され得るため、申請を検討する際は必ず公式情報をご確認ください。
「何から準備すればよいかわからない」という段階からのご相談も承っています。
制度の要件確認、自社が対象になるかの整理、申請書類の準備まで、行政書士の立場でサポートいたしますので、お気軽にお問い合わせください。
関連記事
- [中小企業のセキュリティ対策が「狙われる前」に必要な理由|攻撃の実態と進まない背景](全体像をまとめた記事)
- [なぜ中小企業がサイバー攻撃に狙われるのか?大企業より危険な4つの理由](初心者向け)
- [中小企業のサイバー攻撃事例7選|被害額と「何が起きたか」から学ぶ教訓](実践編)
出典
- IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査 報告書/概要説明資料」(2025年)
- IPA「SECURITY ACTION」公式情報、「SECURITY ACTION管理システム」案内(2026年)
- IPA「サイバーセキュリティお助け隊サービス」制度概要
- 警察庁「令和7年(2025年)におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年3月公表)
- 経済産業省/IT導入補助金2025・デジタル化・AI導入補助金(2026年度)「セキュリティ対策推進枠」公募情報
※本記事は公開情報をもとに作成しています。制度の名称・内容・補助額・要件・公募スケジュールは変更される場合があるため、申請の際は必ず各制度の公式情報をご確認ください。
