「不動産業を始めたいけれど、いきなり会社を作るのはハードルが高い。
個人事業主のままでも免許を取れるのだろうか」
——そんな疑問を持って相談に来られる方は少なくありません。

結論を先に言えば、個人事業主でも宅建業免許は取得できます
法律上、個人・法人のいずれも免許申請の対象となっており、個人だからといって不利になる要件はほとんどありません。

ただし、個人免許には実務上の注意点もあります。
特に「将来的に法人化したい」と考えている場合は、スタートの形態選択が後々に大きく影響するため、最初の段階でしっかり考えておくことが重要です。

本記事では、個人事業主が宅建業免許を取得する際の要件・必要書類・メリット・注意点を、法人との違いを交えながら整理します。

宅建業免許の基本要件:個人も法人も共通

宅建業免許を取得するためには、個人・法人を問わず、次の要件を満たす必要があります。

①事務所の設置

継続的に業務を行うことができる施設があり、宅建業に係る契約締結の権限を持つ者が常勤していること。
自宅の一室を事務所とすることも、一定の条件のもとで認められています。

②専任の宅地建物取引士の設置

事務所ごとに、業務に従事する者5人につき1人以上の割合で、専任の宅地建物取引士を置くことが必要です。
個人事業主の場合、代表者本人が宅建士の資格を持ち、自ら専任の宅建士を兼ねるケースが大半です。

③欠格要件に該当しないこと

禁錮以上の刑に処せられた場合や、宅建業法違反により罰金を受けた場合など、法定の欠格事由に当てはまると免許を受けることができません。
個人の場合は本人だけでなく、政令使用人がいる場合はその者についても確認が必要です。

④財産的基礎の確保

営業保証金として主たる事務所に1,000万円(保証協会に加入する場合は弁済業務保証金分担金として60万円)を供託または納付する必要があります。

これらの要件は個人・法人で共通です。
「法人でなければ免許が取れない」という制度上の根拠はありません。

個人と法人で異なる申請書類

免許申請に必要な書類は、個人と法人で一部異なります。
主な違いは以下のとおりです。

個人事業主にのみ必要な書類

  • 住民票(本人および政令使用人がいる場合はその者のもの)
  • 資産に関する調書(現金・預金・土地・建物などの資産と負債をまとめた表。事業用だけでなく私生活上の資産・負債も含めて記載)
  • 直前1カ年分の課税証明書または源泉徴収票

法人にのみ必要な書類

  • 履歴事項全部証明書(登記簿謄本)
  • 定款
  • 直前1期分の貸借対照表・損益計算書
  • 役員全員の略歴書・身分証明書・登記されていないことの証明書

なお、令和6年5月25日からの法改正により、専任の宅地建物取引士については「身分証明書」と「登記されていないことの証明書」の提出が不要になりました。 (役員・代表者・政令使用人については従来どおり必要)

書類の準備にあたっては、最新の申請手引きを確認することをお勧めします。

個人事業主として免許を取るメリット

メリット① 開業コストが抑えられる

法人を設立するには、株式会社であれば登録免許税15万円・定款認証費用約5万円など、設立だけで20万円程度のコストがかかります。
個人事業主の場合、開業届の提出だけで済むため、初期費用を大幅に抑えることができます。

メリット② 手続きがシンプルで迅速

法人設立には登記申請や定款作成などの手続きがあり、設立完了まで2〜3週間程度かかります。
個人事業主であれば、開業届を税務署に提出してすぐに申請準備に入れるため、スピード感のある開業が可能です。

メリット③ 維持コストがかからない

法人は赤字であっても法人住民税(均等割)が毎年発生します。
東京都の場合、最低でも年間7万円程度が固定でかかります。
個人事業主にはこうした固定的な税負担がないため、事業規模が小さい段階では維持コストを抑えやすい面があります。

個人事業主として免許を取る際の注意点

注意点① 法人化したら免許の引き継ぎができない

これが最も重要な注意点です。
個人で取得した宅建業免許は、法人成り(個人事業主が法人を設立して事業を引き継ぐこと)をしてもそのまま法人に引き継ぐことができません
法人として改めて新規申請が必要になります。

つまり、個人で取得した免許の更新回数はリセットされ、免許番号も変わります。
業歴を示す免許番号の回数は、業界内の信頼性に影響することもあります。
将来的に法人化を考えているのであれば、最初から法人で免許を取得することを検討する価値があります。

注意点② 契約・口座・信用の面で法人より不利になることがある

個人事業主の場合、不動産取引の契約書や銀行口座の名義は個人名になります。(屋号付きの口座もあります)
取引先や金融機関によっては、法人に比べて信用力が低く見られるケースがあります。
特に法人との取引が多い事業展開を想定している場合は、この点を考慮に入れておく必要があります。

注意点③ 代表者の死亡・廃業で免許が消滅する

個人事業主の免許は、代表者個人に紐づいています。
代表者が死亡した場合や廃業した場合、免許はその時点で効力を失います。
法人であれば代表者が変わっても免許は存続するため、事業の継続性という観点では法人の方が有利です。

注意点④ 所得税の税率が高くなる可能性がある

個人事業主の所得は、所得税(最大45%)と住民税(10%)の合計で課税されます。
事業が拡大して課税所得が増えると、法人税率(概ね20〜30%台)より高い税負担になるケースがあります。
売上規模が大きくなってきた段階では、法人化による節税効果も検討に値します。

個人・法人、どちらで始めるべきか

判断の基準として、次のように考えると整理しやすくなります。

個人事業主から始めることが向いているケース

  • 自己所有の不動産の売買など、小規模・短期的な取り組みを想定している
  • 開業コストを最小限に抑えたい
  • 将来的に法人化する予定が明確にない

法人から始めることが向いているケース

  • 本格的に不動産業として事業を拡大していく方針がある
  • 取引先や金融機関からの信用を重視したい
  • 将来的な法人化を視野に入れている(免許番号のリセットを避けたい)
  • 節税の観点から法人の方が有利になる規模を見込んでいる

実務上は、事業を本格的に展開していくことを前提とした場合、最初から法人として免許を取得するケースが多いのが実情です。
ただし、これはあくまで一般論であり、個人の事情や事業計画によって最適な選択は変わります。

まとめ

個人事業主でも宅建業免許は問題なく取得できます。
法人との違いは申請書類の一部と、その後の事業運営上の実務面にあります。

最も気をつけたいのは、個人で取得した免許は法人に引き継げないという点です。(新規取得となります)
将来の法人化を想定しているなら、最初から法人として免許を取ることで、手間とコストの二重発生を避けられます。

「個人と法人、どちらが自分の状況に合っているか」の判断は、事業計画・資金計画・将来展望をセットで考える必要があります。
ぜひ専門家に相談のうえ、自分に合った形でスタートを切ってください。

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