行政処分は「悪質な業者だけの問題」ではない
「行政処分を受けるのは、悪質な不動産会社の話」──そう思っている宅建業者は少なくありません。
しかし実際には、重要事項説明書の記載ミス、帳簿の管理不備、広告表示の誤り、専任宅建士の要件欠如など、日常業務の中に行政処分の原因が潜んでいます。
行政処分は一度受けると、国土交通省の「ネガティブ情報等検索サイト」に最大5年間公開され、会社の信用に深刻なダメージを与えます。
業務停止ともなれば売上が止まり、免許取消しに至っては事業継続そのものが不可能になります。
本記事では、宅建業者に対する行政処分の種類・対象となる違反行為・2025年の法改正ポイントを実務視点で整理します。
行政処分の3段階:指示・業務停止・免許取消し
宅建業者に対する監督処分(行政処分)は、違反の重さに応じて3段階に分かれています(宅建業法第65条〜第66条)。
| 処分の種類 | 内容 | 処分権者 |
|---|---|---|
| ①指示処分 | 違反状態の是正を命じる。最も軽い処分 | 免許権者+業務地の知事 |
| ②業務停止処分 | 1年以内の期間、業務の全部または一部を停止 | 免許権者+業務地の知事 |
| ③免許取消処分 | 宅建業免許を剥奪。事業継続不可 | 免許権者のみ |
処分の重さは①→②→③の順で重くなります。
また、指示処分に違反すると業務停止処分の対象となり、業務停止処分に違反すると免許取消処分が確定します。段階を踏んで処分が重くなる仕組みです。
業務停止処分および免許取消処分を受けた場合は、その事実が公告されます(宅建業法第70条)。
氏名・商号・処分内容・処分期間が公開され、広く一般に知らされることになります。
指示処分の対象となる主な違反行為
指示処分は「この問題を是正しなさい」という行政からの命令です。
比較的軽い段階ですが、是正しなければ業務停止に発展します。
主な指示処分の対象行為:
- 業務に関して取引関係者に損害を与えた、または与えるおそれが大きいとき
- 業務に関して取引の公正を害する行為をした、または害するおそれが大きいとき
- 宅建業法またはその関連法令に違反したとき
- 所属する宅建士が監督処分を受けた場合で、宅建業者側に責任があるとき
- 業務に関して他の法令(建築基準法等)に違反し、宅建業者として不適当と認められるとき
業務停止処分の対象となる主な違反行為
業務停止処分は最長1年間、業務の全部または一部が停止されます。
停止期間中は新たな契約締結・広告活動が禁止されます(既存契約の処理は一部可能)。
業務停止処分の主な対象行為(宅建業法第65条第2項):
● 広告・募集に関する違反
- 誇大広告の禁止違反(現実と著しく異なる表示、または優良・有利と誤認させる表示)
- 取引態様の明示義務違反(売主・貸主・代理・媒介の別を明示しない)
● 重要事項説明・書面に関する違反
- 重要事項説明(35条書面)の義務違反:説明未実施、宅建士証未提示、記載不備など
- 37条書面(契約締結時の書面)の交付義務違反
- 媒介契約書面の交付・価格根拠の明示義務違反
● 保証金・手付金に関する違反
- 手付金等の保全措置義務違反(自ら売主の場合)
- 手付の信用供与による契約誘引(分割払いなどで手付を貸すことで契約を誘引する行為)
- 限度額を超える報酬の受領、または不当に高額の報酬要求
● 業務全般に関する違反
- 専任宅建士の設置要件を欠いた状態(5人に1人以上の要件を満たさない)
- 従業者名簿を備え付けていない
- 重要な事実の不告知(取引の相手方に不利益な事実を故意に告げない)
- 不当な履行遅延(登記・引渡し・対価の支払いなどを不当に遅延する)
- 守秘義務違反
- 指示処分に違反したとき
【2025年1月施行】「囲い込み」も行政処分の対象に
2024年6月の宅建業法施行規則改正により、2025年1月から「囲い込み」行為が行政処分の対象となりました。
これは実務に直接影響する重要な変更点です。
「囲い込み」とは、売主から専属専任媒介・専任媒介契約を受けた業者が、他の業者からの購入希望者の問い合わせを故意に断り、自社で買主も見つけることで両手仲介報酬を得ようとする行為です。
改正後は、レインズに物件情報を登録する際にステータス管理機能を最新の状態に保つ義務が課され、登録ステータスと実際の販売状況が一致していない場合は指示処分の対象になります。
よくある「名義貸し」は免許取消し・刑事罰の重大リスク
名義貸しとは、宅建業免許を持つ業者が、免許を持たない第三者に自社の名義(商号・免許番号)を貸し、その第三者が宅建業を営む行為を指します。
不動産業界では「免許を持っていない知人に名前だけ貸した」「ペーパー会社に自社名義を使わせた」といった形で行われることがあります。
名義貸しが重大な理由
名義貸しは宅建業法第13条で明確に禁止されており、違反した場合は貸した側・借りた側の双方が厳しく処罰されます。
名義を貸した宅建業者(貸した側):
- 業務停止処分または免許取消処分の対象
- 3年以下の懲役または300万円以下の罰金(刑事罰)
名義を借りた無免許者(借りた側):
- 無免許営業として3年以下の懲役または300万円以下の罰金
「名義を借りただけ」では通じない
名義貸しのケースでよく見られる言い訳が「不動産取引業務には関与していない、名前だけを貸した」というものです。
しかし宅建業法では、名義を貸した事実そのものが違反であり、実際に業務に関与したかどうかは関係ありません。
また、最高裁令和3年6月29日判決では、無免許者が宅建業者から名義を借りて不動産取引を行い、利益を両者で分配する合意は無効と判断されています。
名義貸しによって得た利益の分配契約自体が法的に無効とされるため、経済的なメリットも得られないリスクがあります。
宅建士の「名義貸し」も同様に厳禁
宅建業者の名義貸しと混同されやすいのが、宅建士個人の名義貸しです。
専任宅建士の要件を満たすために、実際には勤務していない宅建士を専任として名義登録するケースがこれに当たります(いわゆる「幽霊宅建士」)。
これは宅建業法上の専任宅建士の常勤・専従要件に違反するだけでなく、虚偽申請として免許取消し・刑事罰の対象になります。
宅建士本人も事務禁止処分・登録消除処分を受けるリスクがあり、依頼を受けた側も「名義を貸した側」として処分対象になります。
免許取消処分の対象となる行為
免許取消処分には、必ず取り消される「必要的取消処分」と、行政の裁量で取り消される「裁量的取消処分」の2種類があります。
必要的取消処分(宅建業法第66条第1項)──必ず取り消される
- 欠格要件(破産・禁錮以上の刑・特定の罰金刑・暴力団関係など)に該当するに至ったとき
- 免許換えの手続きを怠ったとき
- 不正手段によって免許を取得したとき
- 業務停止処分対象行為で情状が特に重いとき
- 業務停止処分に違反したとき
- 免許を受けてから1年以内に業務を開始しないとき
- 1年以上業務を休止したとき
裁量的取消処分(宅建業法第66条第2項・第67条)──取り消されることがある
- 免許に付された条件に違反した場合
- 営業保証金供託の届出の催告を受け、1か月以内に届出をしないとき
- 宅建業者の事務所の所在地が確知できないとき(公告後30日以内に申出がない場合)
行政処分が発覚するきっかけ──消費者通報と立入検査
行政処分の発端となるのは主に以下の3つです。
① 消費者からの苦情・情報提供(通報)
重要事項説明の不備、誇大広告による被害、手付金トラブルなど、消費者から都道府県の窓口に通報が入るケースが最も多い発端です。
② 同業者からの情報提供(通報)
同業者間ではいろいろな情報が飛び交っています。中には、不正な体制、取引で収益を挙げている場合は通報される可能性が大です。
② 行政による立入検査
国土交通大臣や都道府県知事は、業務の適正な運営を確保するため、宅建業者の事務所に立ち入り、帳簿・書類・業務記録を検査する権限を持っています(宅建業法第72条)。
検査を正当な理由なく拒否・妨害した場合、それ自体が指示処分や業務停止処分の対象となります。
行政処分と刑事処分は別物──両方科されることがある
行政処分(監督処分)と刑事処分(罰則)は別の制度であり、同一の違反行為に対して両方が科されることがあります。
主な刑事罰の目安は以下のとおりです。
| 違反行為 | 刑事罰 |
|---|---|
| 無免許営業・業務停止違反・不正手段での免許取得 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金 |
| 重要な事実の不告知 | 2年以下の懲役または300万円以下の罰金 |
| 不当に高額の報酬要求 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
| 誇大広告・不当な履行遅延 | 6か月以下の懲役または100万円以下の罰金 |
| 帳簿の不備・標識未掲示・37条書面の不交付 | 50万円以下の罰金 |
また、両罰規定により、従業者が違反した場合、雇用主である宅建業者(法人)も同一の罰金刑が科されます。
従業員個人の行動が会社全体のリスクになる点に注意が必要です。
まとめ:行政処分リスクは「知識と習慣」で防げる
宅建業の行政処分は、悪意のある違反だけでなく、手続きの抜け漏れや知識不足による業法違反からも発生します。
処分を受けた後では取り返しがつかないケースも多く、開業前・開業後を問わず定期的な法令知識のアップデートが不可欠です。
「この対応は問題ないか」「この書類で法令上問題ないか」と判断に迷う場面こそ、専門家に確認するタイミングです。
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