建設業許可を持つ経営者の皆さまへ。
2026年は「経営事項審査(経審)」「特定建設業許可の下請金額基準」「取適法」という、実務に直結する3つの制度変更が重なるタイミングです。
これらは施行時期も対象者も異なるため、断片的に情報を集めると「自社に関係あるのかどうか」の判断が後手に回りがちです。
本記事では、3つの改正を横並びで整理し、自社が今どこから着手すべきかをチェックできる形でまとめます。
なお、統計や数値は執筆時点(2026年8月)で確認できた公開情報に基づくものであり、今後の運用通知等で細部が変更される可能性があります。
最新情報は所轄行政庁または専門家への確認をお願いします。
2026年、建設業許可業者が押さえるべき3つの改正の全体像
まず全体像です。
| 改正項目 | 施行時期 | 主な対象者 |
|---|---|---|
| 経営事項審査(経審)の評価基準見直し | 2026年7月1日 | 公共工事の元請として経審を受審する企業 |
| 特定建設業許可が必要となる下請金額基準 | 2025年2月1日 | 元請として一定額以上の下請契約を結ぶ企業 |
| 取適法(中小受託取引適正化法) | 2026年1月1日 | 資材製造・設計等を外部委託する発注側企業(工事の下請契約そのものは原則対象外) |
「2026年の改正」として一括りにされている情報も見かけますが、特定建設業許可の下請金額基準の引き上げは、2025年2月1日に施行されたものです。2026年に入って改正されたわけではありませんので、混同しないようご注意ください。
改正①:経営事項審査(経審)の評価基準見直し(2026年7月1日施行)
経審は、公共工事を元請として直接請け負う建設業者が法定で受けなければならない審査で、会社の経営規模・経営状況・技術力・社会性を数値化し「総合評定値(P点)」として評価するものです。
2026年7月1日以降の申請から、この経審の基準が変わりました。
今回の改正は「担い手の育成・確保」「災害対応力の強化」「建設業許可要件の改正への対応」という3つの柱に基づくとされています。
具体的な変更点として、これまでW点(社会性等)に含まれていた雇用保険・健康保険・厚生年金保険の加入状況に関する審査項目(各項目マイナス最大40点、合計最大マイナス120点の減点措置)が撤廃される点です。
また、ワーク・ライフ・バランス認定の評価指標が段階別評価に変わることや、「建設技能者を大切にする企業の自主宣言」(いわゆる職人いきいき宣言)が新たな加点項目として加わるようになりました。
経審受審を予定している場合は、最新の手引きを取得したうえでP点への影響をシミュレーションすることをおすすめします。
対応の目安:
- 新様式・新基準の把握、確認をする
【国交省の資料】〈令和8年7月1日施行〉経営事項審査の主な改正事項(令和8年2月6日公布) - 社会保険加入状況以外の加点項目(職人いきいき宣言など)で新たに取得できるものがないか確認する
改正②:特定建設業許可が必要になる下請金額基準(2025年2月1日施行)
特定建設業許可は、元請として受注した工事について一定額以上の下請契約を結ぶ場合に必要となる、一般建設業許可より上位の許可です。
2025年2月1日施行の建設業法施行令改正により、この基準額が引き上げられました。
従来は建築一式工事で7,000万円、それ以外の工事で4,500万円でしたが、改正後は建築一式工事で8,000万円、それ以外の工事で5,000万円が基準となっています。
この金額は、資材や人件費の高騰など実態の変化に対応した見直しとされています。
ここで誤解しやすいのは、この基準額はあくまで「元請が下請に発注する金額」に関するものであり、発注者から直接請け負う請負金額そのものには一般・特定を問わず上限がないという点です。
つまり、下請として受注する立場であれば、一般建設業許可のままどれだけ高額な工事でも施工できます。基準額に関わるのは、あくまで自社が元請となって下請に出す金額の合計です。
対応の目安:
- 元請として下請に発注している(または今後発注予定の)金額合計が、建築一式8,000万円/その他5,000万円のラインに近づいていないか確認する
- 近づいている場合、特定建設業許可への切り替えに必要な専任技術者・財産要件を早めに確認する
改正③:取適法(中小受託取引適正化法)の施行(2026年1月1日)
取適法は、正式名称を「中小受託取引適正化法」といい、従来の「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」を抜本的に改正した法律として、2026年1月1日に施行されました。
従来の下請法が発注者・受注者双方の資本金規模で適用対象を限定していたのに対し、取適法では資本金に加えて従業員数も基準に追加され、資本金が少なくても従業員数が多い企業が規制対象となるケースが生じています。
建設業者にとって特に誤解が生じやすいのが、適用範囲の線引きです。
建物や土木構造物を完成させるための工事請負(元請から下請への工事の再委託)自体は、原則として建設業法の枠組みで判断され、取適法の対象外とされています。
一方で、建設業者が工事以外の業務——たとえば特注の建具やプレカット材、コンクリート製品などの資材・部材の製造委託、設計事務所への設計図書やパース作成の委託、現場に関連する運送の委託など——を外部発注する場合は、取適法の対象になり得るとされています。
発注者側に求められる主な対応としては、価格交渉に応じず一方的に価格を決定することが違反行為として明記された点、また代金支払いに手形を用いる場合のサイト(振出日から満期日までの期間)を60日以内とするルールが挙げられます。
対応の目安:
- 自社が発注している業務のうち、工事請負以外の外部委託(資材製造・設計・運送等)がないか棚卸しする
- 該当する委託がある場合、価格協議の記録化や支払いサイトの見直しが必要かどうかを確認する
自社は何から着手すべきか|対応優先順位チェックリスト
3つの改正は対象者が異なるため、すべての企業が同じ対応を取る必要はありません。
以下の簡易チェックで、自社にとっての優先順位を確認してください。
- 公共工事の元請として経審を受審している、または受審予定がある → 経審改正への対応を優先(次回受審前に新様式・新基準を確認)
- 元請として下請に発注する金額が年間5,000万円(建築一式は8,000万円)に近い、または超えている → 特定建設業許可への切り替え要否を確認
- 資材製造・設計・運送などを外部委託している(工事の再委託以外) → 取適法の対象になり得るため、価格協議・支払い条件の見直しが必要
いずれにも当てはまらないと思われる場合でも、取適法は建設工事以外の周辺取引を幅広くカバーする改正であるため、「自社は関係ない」と即断せず、一度取引内容を棚卸ししておくことをおすすめします。
自社対応で足りるケース/専門家に相談すべきケース
経審の書類準備や、既存の下請契約金額の集計程度であれば、社内での対応も十分可能です。
一方で、次のようなケースでは専門家への相談が有効です。
- 特定建設業許可への切り替えが必要かどうか、専任技術者要件や財産要件の充足を含めて判断に迷う場合
- 取適法の対象取引に該当するかどうか、自社の委託契約の実態に照らして線引きが難しい場合
- 経審のP点シミュレーションを踏まえて、公共工事の受注戦略自体を見直したい場合
制度の文言だけを追うと対象範囲を広く(あるいは狭く)誤解してしまうケースが実務上少なくありません。
判断に迷う場合は、早めに行政書士等の専門家に相談し、自社の契約実態に即した整理を行うことをおすすめします。
まとめ
2026年は、経審・特定建設業許可・取適法という3つの改正が重なる年です。
それぞれ施行時期も対象者も異なりますが、共通しているのは「自社の取引実態を棚卸しし、該当するかどうかを早めに確認する」という点です。
本記事のチェックリストを参考に、優先順位をつけて対応を進めてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 経審を受けていない会社も対応が必要ですか?
公共工事を元請として直接受注しない企業であれば、経審改正の直接的な影響は限定的です。
ただし、取適法は経審の受審有無に関わらず、外部委託の実態次第で対象になり得るため、別途確認が必要です。
Q2. 特定建設業許可の下請金額基準は、2026年にさらに変わりますか?
現時点では、2026年に入って新たな基準額の引き上げがなく、2025年2月1日施行の基準(建築一式8,000万円/その他5,000万円)が現在も適用されています。
今後の改正動向については、国土交通省の発表を継続的に確認することをおすすめします。
Q3. 取適法は工事の下請契約にも適用されますか?
建物や土木構造物を完成させるための工事請負(工事の再委託)自体は、原則として取適法の対象外とされ、建設業法の枠組みで判断されます。
ただし、資材製造・設計・運送などの委託は対象になり得るため、契約内容ごとの確認が必要です。
Q4. 相談はどのタイミングが良いですか?
経審であれば次回受審の準備を始める前、特定建設業許可であれば下請発注額が基準に近づいてきた段階、取適法であれば外部委託の契約更新のタイミングが、それぞれ相談の目安になります。
