「民泊の営業が制限されるなら、旅館業に切り替えて営業を続けられないだろうか」
新宿区の民泊規制強化案を受けて、このように考える物件オーナーや運営事業者もいるのではないでしょうか。
前回の記事「新宿区の民泊規制強化案|既存施設への影響とオーナーが今確認すべき3点」では、規制見直しの内容と、営業継続に向けて確認したい事項を解説しました。
今回は、その先の選択肢である「民泊から旅館業への転換」を取り上げます。
転換できるかどうかは、立地、建物、所有者等の承諾、運営体制によって異なります。
さらに、新宿区では旅館業についても規制強化が検討されています。
工事や契約変更を進める前に、許可の見通しと必要な費用を順番に確認しましょう。
※本記事の「民泊」は、住宅宿泊事業法に基づく住宅宿泊事業を指します。
2026年10月27日時点では、以下で紹介する新宿区の条例改正案は確定していません。
1.民泊の届出をしていても、旅館業の許可は別に必要
住宅宿泊事業と旅館業は、異なる制度です。
住宅宿泊事業には年間180日以内という法律上の上限があり、自治体の条例によって営業区域や期間がさらに制限される場合があります。
180日を超えて宿泊サービスを提供するためには、原則として旅館業法に基づく許可が必要です。
出典:厚生労働省「民泊サービスを始める皆様へ」
そのため、民泊から旅館業への転換は、届出内容を変更するだけでは完了しません。
旅館業の施設として必要な条件を確認し、新たに許可を取得する必要があります。
また、旅館業には「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」などの区分があります。
小規模な施設だから自動的に簡易宿所になるわけではなく、構造や宿泊形態に応じた検討が必要です。
出典:厚生労働省「民泊サービスと旅館業法に関するQ&A」
2.まず確認したいのは、旅館業ができる場所かどうか
前回の記事では、民泊規制への影響を調べるために用途地域や文教地区を確認することをお伝えしました。
旅館業への転換でも、最初に確認したいのは立地です。
ただし、民泊の営業制限と、旅館業の立地に関する制限は、分けて確認する必要があります。
新宿区は、住居専用地域では宿泊施設の設置に制限がかかるとしています。
用途地域を調べたうえで、旅館業として利用できる場所か、建築担当部署に確認しましょう。
出典:新宿区「まちづくり・都市計画」
確認する際は、次の情報を整理しておいてください。
- 物件の正確な所在地
- 用途地域、文教地区などの指定
- 建物全体と営業予定部分の面積
- 営業に使用する階
- 現在の建物用途と予定する宿泊形態
「近くにホテルがある」「同じマンションで民泊をしている」といった事情だけでは、対象物件で旅館業ができるとは判断できません。
3.建物は、そのまま旅館業に使えるとは限らない
住宅として使える建物でも、宿泊施設として使用する場合には、別の確認が必要です。
新宿区は、旅館業の許可に当たり、建築基準法や消防法などへの適合に加え、区の条例に定める基準を満たす必要があります。
出典:新宿区「旅館の申請(届出)手続き」
確認対象となる例は、次のとおりです。
| 確認分野 | 事前に調べたい内容 |
|---|---|
| 建築 | 用途変更の手続き、避難経路、階段、既存建物の適法性 |
| 消防 | 必要な消防用設備、設置工事、建物全体への影響 |
| 構造・設備 | 客室の面積、換気、採光、便所・洗面・入浴設備 |
| 管理・運営 | 本人確認、施設の監視、緊急時対応に必要な設備と体制 |
用途変更については、確認申請の要否と、建築基準法への適合を分けて考えます。
小規模で確認申請が不要な場合でも、法令への適合が不要になるわけではありません。
参考:品川区「旅館業への用途変更」
図面や確認済証・検査済証などの資料を集め、建築士と管轄消防署に確認することが、工事費の見積もりに向けた出発点です。
4.新宿区の改正案では、小規模物件の転換が難しくなる可能性
今回の転換検討で見落とせないのが、旅館業に関する条例改正案です。
新宿区が2026年10月15日に公表した骨子には、構造設備基準として、主に次の内容が示されています。
- 旅館用途の延べ床面積の合計が200平方メートルを超えること
- フロントを設置すること
- 営業従事者の控室や、従事者が利用できる便所を設けること
- 玄関・フロント・客室等を同一敷地内で管理できる構造とすること
- 車寄せまたは駐車場、廃棄物の保管設備を設けること
- 旅館・ホテル営業では、十分な広さのロビーを設けること
これらは現行の確定した要件ではなく、改正案の内容です。
ただし、案のとおりに制度が変われば、戸建てやマンションの一室などを活用した転換計画には、大きな影響が生じる可能性があります。
出典:新宿区「旅館業法施行条例」改正案(骨子)
「既存民泊」と「既存旅館」を混同しない
骨子では、新たな構造設備基準を既存施設には適用しないとしています。
しかし、現在、民泊の届出で営業していることだけを理由に、旅館業でも既存施設として扱われるとは判断できません。
転換時に適用される基準や経過措置については、成立する条例・規則と区の案内を確認する必要があります。
「今のうちに申請すれば必ず現行基準で許可される」といった前提で、工事や契約を進めないようにしましょう。
改正の検討状況は、新宿区のパブリック・コメント案内で確認できます。
5.賃貸物件・分譲マンションは、承諾の範囲も確認する
建物が基準を満たせそうでも、所有者や管理組合との関係で転換できない場合があります。
新宿区の旅館業許可申請では、所有者等の利用許諾を証する書類や、区分所有建物の場合には管理組合の利用許諾等に関する書類が求められています。
出典:新宿区「旅館の申請(届出)手続き」
確認したいのは、承諾の有無だけでなく、その範囲です。
| 物件の状況 | 確認したいこと |
|---|---|
| 賃貸物件 | 賃貸借契約上、旅館業として使用できるか |
| 転貸物件 | 所有者・賃貸人等の承諾関係が整理されているか |
| 分譲マンション | 管理規約や管理組合の意思が旅館業の営業と整合するか |
| 設備工事が必要な物件 | 共用部への工事や設備設置について承諾を得られるか |
民泊への承諾を得ていても、そのまま旅館業にまで承諾が及ぶとは限りません。
追加投資の前に、契約書や承諾書を確認しておきましょう。
6.転換費用は「申請費用」だけで判断しない
転換に必要な金額は、既存設備、改修範囲、運営方法によって変わります。
物件情報を確認せずに、一律の相場だけで予算を決めることは避けたいところです。
資金計画では、次の項目を分けて見積もりましょう。
| 費用の区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 調査・設計 | 現況調査、図面作成、建築・消防の適合確認 |
| 改修・設備 | 避難・防火対応、水回り、消防設備、管理用設備等 |
| 許可申請 | 行政の手数料、申請支援を依頼する場合の報酬等 |
| 開業準備 | 備品、予約情報の変更、運営体制の整備 |
| 営業開始までの資金 | 工事・審査期間中の賃料、借入返済、維持費 |
| 開業後の費用 | 人件費、清掃費、設備保守費、管理費等 |
特に、施設内に人員を配置する計画では、毎月の人件費が収支に与える影響も確認します。
営業できる日数が増えても、利益が増えるとは限らない
旅館業として営業できるようになっても、毎日予約が入るわけではありません。
売上は、例えば次のように試算します。
年間売上の目安=1室1泊当たりの平均単価×販売可能室数×営業日数×想定稼働率
ここから、予約サイト手数料、清掃費、人件費、賃料、光熱費などを差し引き、転換に投じた資金を回収できるかを確認します。
「民泊を継続する場合」「旅館業へ転換する場合」「通常の賃貸へ切り替える場合」を比較検討すると判断しやすくなります。
7.転換を検討するときの進め方
物件の転換可否を調べる際は、次の順序を目安にしてください。
- 資料を集める
所在地、図面、面積、建築関係書類、民泊の届出情報、契約書・管理規約を整理します。 - 立地と使用権限を確認する
旅館業として使える場所か、所有者等の承諾を得られるかを確認します。 - 保健所・建築・消防へ事前相談する
営業区分、必要な改修、運営体制、改正案との関係を確認します。 - 工事費と運営費を見積もる
許可取得までの費用と、営業開始後の収支を試算します。 - 計画を確定し、必要な手続きを進める
事前相談、標識掲示、申請、検査・審査を経て、許可後に営業する流れです。
出典:新宿区「旅館の申請(届出)手続き」
現在の民泊の廃業手続きや、予約受付の切り替え時期も、許可取得の見通しと合わせて調整しましょう。
8.民泊から旅館業への転換を検討している方へ
新宿区で民泊から旅館業への転換を考える際は、次の3点を整理することが大切です。
- 許可の見通し:立地、建築・消防、設備、使用権限を確認できるか
- 制度変更への対応:旅館業の改正案が計画にどう影響するか
- 事業としての採算:改修費と継続的な運営費を回収できるか
前回の記事で民泊への影響を確認した方は、次に、ご自身の物件についてこれらを具体化してみてください。
