「M&Aの話が動き始めた」「後継者への承継に合わせて設備を入れ替えたい」。
そんなタイミングで使えるのが、中小企業庁の「事業承継・M&A補助金」です。
16次公募は2026年10月2日(金)に申請受付が始まり、締切は11月6日(金)です。

ただしこの補助金には、申請書の出来とは関係なく「その経費は対象外」「そもそも申請できない」となる落とし穴がいくつもあります。
本記事では、登録M&A支援機関・認定経営革新等支援機関である行政書士の立場から、締切までの準備と、申請前に必ず確認すべき3つのポイントを整理します。

この記事の要点

  • 16次の申請期間は2026年10月2日〜11月6日17:00です。
    GビズIDプライムの取得に2〜3週間かかるため、10月上旬までに着手しないと間に合わない可能性があります。
  • 仲介・FA(M&Aの助言役)との契約を交付決定前に結ぶと、その費用は補助対象外になります。
    補助金を使うなら、先に契約してはいけません。
  • 仲介・FA費用は登録M&A支援機関への委託分だけが対象です。
    相見積の相手も登録業者である必要があります。

16次の全体像:4つの枠と申請期間

事業承継・M&A補助金は、事業承継やM&Aに伴う設備投資、専門家費用、M&A後の統合(PMI)、廃業にかかる費用の一部を補助する制度です。
次の4つの枠があります(2026年9月4日の中小企業庁公表内容より)。

枠主な対象者補助率補助上限
事業承継促進枠5年以内に親族内承継・従業員承継を予定し、設備投資などを行う方1/2(小規模事業者は2/3)800万円(一定の賃上げで1,000万円)
専門家活用枠M&Aで事業を譲り受ける方(買い手)・譲り渡す方(売り手)買い手2/3、売り手1/2(赤字などの場合2/3)、小規模売り手2/3買い手・売り手600万円(DD費用の申請で+200万円)、小規模売り手450万円、買い手の100億企業特例2,000万円
PMI推進枠M&A後の経営統合に取り組む方1/2(事業統合投資類型の小規模事業者は2/3)専門家活用類型150万円、事業統合投資類型800万円(一定の賃上げで1,000万円)
廃業・再チャレンジ枠承継・M&Aに伴い既存事業を廃業し、新たな取組に挑戦する方2/3(他枠と併用の場合はその枠の補助率)300万円(併用の場合150万円または300万円)

※DD(デュー・ディリジェンス):
買収前に、相手企業の財務・法務などを専門家が調べる調査のこと。
※100億企業特例:
将来の売上高100億円を目指す企業向けの特例で、補助率・要件が異なります(1,000万円以下の部分は1/2、超える部分は1/3)。

経営判断のポイント:
M&Aが補助事業期間内に成立しなかった場合、専門家活用枠の補助上限は大きく下がります。
事務局FAQによると、買い手・売り手は300万円、小規模売り手は50万円に減額され、対象経費も主にDD費用などに限られます。
成約の見込みとスケジュールを冷静に見積もったうえで、どの枠で申請するかを決めることが大切です。

11/6から逆算した準備スケジュール

締切まで残り約6週間(9月25日時点)、逆算すると、次のような流れになります。

時期やること
今すぐ〜10月上旬GビズIDプライムの取得申請(中小企業庁は2〜3週間程度を見込むよう案内)。対象の枠と類型を決める。決算書3期分など必要書類の確認
10月7日(水)17:00まで事務局の16次公募説明会(10月9日開催)の申込期限
10月中旬〜下旬事業計画の作成、加点事由の証明書類の準備、Jグランツ(国の電子申請システム)への入力
11月第1週最終確認と申請完了。締切間際は不備があっても修正が難しくなるため、余裕を持って提出

当事務所の実務の感覚では、決算書などの資料集めから事業計画のたたき台づくりまで、最低でも2〜3週間は見ておきたいところです。
特にGビズIDプライムを持っていない会社は、「計画を作り終えたのにIDが届かず申請できない」という事態が起こり得ます。
まだお持ちでなければ、今日にも申請してください。

落とし穴①:仲介・FAと先に契約すると補助対象外

M&Aの現場で最も多いのが、このパターンです。

仲介会社から「良い相手が見つかりそうなので、早めに業務委託契約を」と言われて契約。
その後に補助金の存在を知り、仲介手数料を補助対象にしようとする。

事務局FAQは、このケースを明確に対象外となります。
11次公募以降は、仲介・FA費用も他の経費と同じく、交付決定後の補助事業期間内に契約し、期間内に支払ったものだけが対象です。
支払いが補助事業期間内であっても、契約が交付決定前なら認められません。

さらに、中間報酬や成功報酬の根拠となる、相手先との「基本合意書」や「最終契約」の締結も、補助事業期間内に専門家の支援を受けて行う必要があるとされています。

一方で、「形式上だけ契約を遅らせればよい」わけでもありません。
事務局は、専門家契約を結ぶべき時期を、専門家の支援を受けることに合意した段階(例:売り手なら企業概要書の作成に入る前、買い手なら基本合意の前)と想定しています。
M&Aがかなり進んでから契約しても、単なる契約の遅れと判断され、対象外になる可能性が高いとしています。

経営判断としては、「補助金を使うか、使わずに先に進めるか」をM&Aの初期段階で決めておく必要があります。
補助金を待つとスケジュールが後ろにずれるため、相手先との交渉のタイミングとの兼ね合いを考えなければなりません。

落とし穴②:登録M&A支援機関と相見積のルール

専門家活用枠で仲介・FA費用を補助対象にするには、次の条件を満たす必要があります(事務局FAQより)。

  • 依頼する仲介・FA業者が、中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録されていること
  • 相見積(複数社から見積りを取ること)の相手も登録業者であること。
    登録が確認できない見積りは無効とみなされる場合があります
  • 相見積の結果、最低価格を提示した業者を選ぶこと。
    それ以外を選ぶと対象外になります
  • 登録の有無は交付決定の時点で判断されます。
    申請時に未登録の業者は、交付申請までに登録を完了している必要があります

「付き合いのある仲介会社に頼みたい」「相見積は形だけ」という進め方は、補助金を使う場合には通用しません。
依頼先が登録されているかは、M&A支援機関登録制度の公式サイトで確認できます。

また事務局は、想定されるM&Aの規模や内容に比べて専門家費用が著しく高い場合、個別に確認することがあるとしています。
見積りの妥当性も見られていると考えてください。

落とし穴③:申請の入口要件と「誰に作成を頼むか」

申請書の出来以前に、そもそも申請できないケースがあります。
主なものは次のとおりです(専門家活用枠の事務局FAQより)。

  • 法人:公募申請時点で3期分の決算・申告を終えていない場合は対象外
  • 個人事業主:開業届と青色申告承認申請書の提出から5年経っていない場合は対象外。
    白色申告の方も対象外
  • グループ内の再編や、資産だけの売買:実質的な事業の引継ぎとは認められず、対象外
  • みなし大企業:大企業が株式の半分以上を持つ会社などは対象外
  • 同じ事業で国の他の補助金を受けている場合:申請できません

そして見落とされがちなのが、申請書を誰に作ってもらうかです。

事業承継・M&A補助金の事務局は、申請内容の作成を第三者に依頼する場合は行政書士(または行政書士法人)に限り、行政書士証票と委任契約書の提出を求めています。
「補助金に詳しいコンサル会社」に作成を丸ごと任せる進め方は、この補助金では認められません。
最新の公募回での扱いは、申請の手引きで必ず確認してください。

採択率は約6割:申請書で見られるポイント

事務局の公表によると、15次公募は申請551件に対して採択338件(約61%)でした。
14次も512件中311件(約61%)です。
約4割は不採択という計算になり、「出せば通る」補助金ではありません。

公募要領が示す審査の観点を踏まえると、当事務所が申請書で特に重視しているのは次の3点です。

  1. なぜ今、このM&A(承継)なのか:
    後継者の状況、市場環境、相手先との相乗効果を、具体的な数字で説明できているか
  2. 引継ぐ中身が明確か:
    設備・従業員・顧客などがまとまった「事業」として引継がれるか(資産だけの譲渡は対象外)
  3. 加点事由を漏らさず証明しているか:
    経営力向上計画や経営革新計画の認定(申請時点で実施期間中であることなどの条件あり)、賃上げの表明など。
    該当するものは証明書類をすべて提出します

なお、賃上げの加点を申請して達成できなかった場合、その後18か月間、中小企業庁所管の補助金で大幅に減点されるとされています。
達成できる計画かどうかを冷静に判断してください。

申請前チェックリスト

次のうち1つでも「いいえ」や「分からない」があれば、申請前に確認が必要です。

  • GビズIDプライムを取得済み、または10月上旬までに申請している
  • 法人は3期分の決算・申告を終えている(個人事業主は青色申告で開業から5年以上)
  • 仲介・FAとは、まだ契約を結んでいない
  • 依頼予定の仲介・FA、相見積の相手が登録M&A支援機関であることを確認した
  • 相見積で最低価格の業者を選ぶ前提で進めている
  • M&Aが補助事業期間内に成立しなかった場合の補助額の減少を理解している
  • 同じ事業で国の他の補助金を受けていない
  • 申請書の作成を外部に頼む場合、依頼先が行政書士である

よくある質問

Q1. 事業承継・M&A補助金16次の締切はいつですか?
A. 2026年11月6日(金)17:00です。
申請受付は10月2日(金)に始まり、電子申請システム「Jグランツ」でのみ受け付けます。

Q2. すでに仲介会社と契約していますが、仲介手数料は補助の対象になりますか?
A. 交付決定前に結んだ契約に基づく費用は、補助対象になりません。
支払いが補助事業期間内でも同じです。
今後の個別案件で新たに契約する場合などの扱いは、事務局FAQと公募要領で確認してください。

Q3. M&Aの相手先がまだ決まっていなくても申請できますか?
A. 申請できます。
事務局FAQでも、候補先やM&Aの形態が決まっていなくても申請自体は可能とされています。
ただし期間内に成約しない場合、補助上限額が大きく下がる点に注意が必要です。

Q4. 申請書の作成は誰に依頼できますか?
A. 第三者に申請内容の作成を依頼する場合は、行政書士(または行政書士法人)に限られます。
行政書士証票と委任契約書の提出も必要です。最新の扱いは各公募回の申請の手引きで確認してください。

Q5. 認定経営革新等支援機関の確認書は必要ですか?
A. 専門家活用枠では不要とされています。
他の枠の要件は、それぞれの公募要領で確認してください。

まとめ:今やるべきこと

事業承継・M&A補助金は、M&Aの専門家費用や承継時の設備投資を大きく軽減できる制度です。
一方で、契約の順番、依頼先の登録、申請書の作成者という、申請書の出来とは関係ないルールで対象外になるケースが少なくありません。

今週中にやるべきこと

  1. GビズIDプライムを持っていなければ、今日申請する
  2. 仲介・FAとの契約を一旦止める(補助金を使う可能性があるなら)
  3. どの枠・類型で申請するかを決める

当事務所にご相談いただけること
行政書士飯島事務所は、行政書士であり、登録M&A支援機関、認定経営革新等支援機関でもあります。

  • 対象の枠・類型の判定と、申請できるかどうかの事前確認
  • 仲介・FAとの契約タイミングや、相見積の進め方の整理
  • 事業計画のたたき台づくりと、Jグランツ申請書の作成(行政書士として対応)
  • 採択後の交付申請・実績報告までの伴走

M&Aの財務・税務・法務の調査(DD)や、株式譲渡後の登記などは、提携する税理士・弁護士・司法書士と連携して対応します。
締切間際はご依頼が集中しまので、検討段階でも、お早めにご相談ください。