「補助金はもらわないと損ですよ」「計画書はこちらで全部作ります」「今はAIですぐ書けます」。
こんな言葉をきっかけに、補助金の申請を考え始めた経営者の方も多いのではないでしょうか。

しかし補助金は「もらえるお金」ではなく、自己負担と数年にわたる義務を伴う「国との約束」です。
また公募要領は、事業計画書を「必ず申請者自身で作成」するよう定めています。
丸投げやAI任せで作った計画書は、読む人が読めばすぐに分かります。

この記事では、補助金の事業計画策定を支援している認定支援機関の行政書士の立場から、「もらわないと損」が誤解である理由、採択後に待っている負担、丸投げ・AI任せが通用しない理由を解説します。

この記事の要点

  1. 「補助金はもらわないと損」は誤解です。自己負担・立替・採択後5年間の報告義務があり、本当に必要な投資でなければ負担だけが残ります。
  2. 事業計画書は申請者自身が作るもの。丸投げは不採択・取消の対象になり得ます。
  3. AIで作った計画書は、具体性のなさと一般論の多さですぐに分かります。AIは補助ツールにとどめましょう。

「補助金はもらわないと損」は間違い

補助金は、やりたい事業があって初めて意味を持つ手段です。
「補助金が出るから投資する」のは順序が逆で、損をするのはむしろこちらのケースです。

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の公募要領を例に、「もらえばお得」とは言えない理由を整理します。

誤解実際(公募要領の内容)
全額出してもらえる補助率は1/2〜2/3。残りは自己負担
すぐにお金が入る交付決定後に発注・支払いを済ませ、実績報告と検査を経てから支払われる後払い。
いったん全額を立て替える資金が必要
申請した経費は出る交付申請時に精査され、減額や対象外になることがある
もらったら終わり賃上げ目標などを達成できなければ、補助金の一部または全額を返還
もらった分は丸ごと得補助金は収入として課税対象になる
(具体的な税務は顧問税理士にご確認ください)

さらに、交付決定前に発注した経費は補助対象外です。
補助金のスケジュールを待つあいだに、商機を逃すこともあります。

「損」かどうかを判断する基準は2つです。
補助金がなくても取り組みたい事業か。
そして、補助金があればより早く、より大きく実現できるか。
どちらにも当てはまらないなら、申請しないのも立派な経営判断です。

採択後に待っている負担──その覚悟はありますか

採択はゴールではなく、スタートです。
新事業進出・ものづくり補助金の場合、採択後には次のような手続きと義務が続きます。

時期主な負担(公募要領1.2版より)
採択直後採択者向け説明会への参加(不参加は採択無効)。
原則2か月以内に交付申請
交付申請1件50万円以上の発注は3者以上の相見積もり。
経費の精査
補助事業実施期間期間内に発注・納品・支払いを完了。
支払いは銀行振込に限る
実績報告完了から30日以内に報告。
事務局の実地検査に対応
事業計画期間5年間で計6回の事業化状況報告。
決算書や賃金台帳で賃上げ・最低賃金水準の達成状況を示す
その後も取得した設備は法定耐用年数まで処分に制限。
保険加入、証拠書類の5年間保存

これらを担うのは、経営者本人と社内の担当者です。
計画書づくりを丸投げして採択されても、ここから先は誰にも代わってもらえません。
報告を怠れば交付決定の取消や返還を求められます。

補助金によって負担の重さは異なりますが、「国のお金を使う以上、説明責任を果たし続ける」という点は共通です。
この負担を引き受けてでも取り組みたい事業かどうか。それが、申請前に確かめるべき「覚悟」です。

※当事務所では採択後も支援しますので、これらの負担は軽減されます。

事業計画書の「丸投げ」が通用しない理由

公募要領のルールでは、「申請者自身が計画を作り、理解し、実行する」ことを前提にしています。

ルール公募要領の内容(要約)守らなかった場合
計画書の作成者外部支援者の助言は受けてよいが、作成は必ず申請者自身が行う不採択・採択取消・交付決定取消
電子申請申請者自身が内容を理解・確認し、自ら申請する不採択・採択取消など
支援者の開示支援者名・支援内容・報酬額・契約期間を入力する未入力は不採択・取消など
他社と似た計画他の事業者と同一・類似した内容の事業は補助対象外対象外・以後の申請に影響

公募要領は、サービスとかけ離れた高額な成功報酬や経費の水増しの提案、支援者名を書かないよう求めることを「不適切な行為の例」に挙げています。
「全部お任せください」という支援者には注意が必要です。

支援現場で多い3つの失敗

失敗1:対象外の経費まで「何でもかんでも」計上する。
計上した経費の大半が対象外なら不採択・採択取消です。
採択後に減額され、補助額が下限を下回れば採択取消にもなります。
欲をかくほどリスクが増え、採択後の報告でも苦しみます。

失敗2:自社の歴史や想いを延々と書く。
審査員は物語を読んでいるのではなく、審査項目ごとに記載の有無と内容の優劣を評価しています。
公募要領は採点基準が書かれたバイブルです。
審査項目を見出しにして、一つずつ答えましょう。

失敗3:事業者は丸投げし、支援者は丸受けする。
事業者しか知らない顧客の声や現場の数字がないため、どの会社にも当てはまる計画になります。
こうした計画書は読めばすぐに分かり、何より事業者自身のためになりません。

AIで作った事業計画書はすぐに分かる

生成AIに任せて書いた計画書は、文章が整っていても、読めばすぐに分かります。
支援の現場で計画書を読む立場から見ると、AI任せの計画書には共通する特徴があるからです。

  • 「DXの推進」「顧客満足度の向上」など、どの会社にも当てはまる一般論が並ぶ
  • 取引先の反応、実際の問い合わせ件数など、その会社ならではの固有情報がない
  • 市場規模などの数字に出典がない、または確認できない
  • 文章はなめらかなのに、章ごとに数字やストーリーがつながっていない(論理的な流れになっていない)
  • 公募要領の審査項目の言葉をなぞっているだけで、中身の答えがない

審査は「記載があるか」だけでなく「内容が優れているか」で評価されます。
一般論は、固有の情報を持つ他の申請者との比較で必ず負けます。

また、同じようなAIに同じような指示をすれば、似た文章ができあがります。
公募要領が対象外とする「他社と同一・類似の計画」に近づくリスクもあります。

AIを使ってよい場面AIに任せてはいけない部分
公募要領の要点整理、審査項目の洗い出し顧客の具体的な声、取引先とのやり取り
見出し構成のたたき台づくり
(最近は予め構成が決まっている場合も多い)
自社の強み・弱みの判断
誤字脱字や分かりにくい表現のチェック売上・付加価値額・賃上げ目標の数字と根拠
経営者が話した内容の文章化市場データ(出典の確認が必要)

判断の目安はシンプルです。
計画書のどの一文についても「なぜそう言えるのか」を自分の言葉で説明できるか。
説明できない部分があれば、それはAI依存のサインです。

経営者がやること、専門家と一緒にやること

丸投げはできません。
でも、一人で抱え込む必要もありません、大切なのは役割分担です。

経営者自身がやること専門家と一緒にやること
やりたい事業の姿を決め、取り組む覚悟を持つ公募要領の要件と自社の状況の照合
顧客・競合・自社の強みについて検討する対話を通じた情報の整理と、審査項目に沿った構成づくり
売上や賃上げ目標の数字に根拠を持つ補助対象経費と対象外経費の仕分け、加点項目の確認
計画書を自分で書き、自分で申請する書いた内容への助言、説明の練習
採択後の実行と報告を担う交付申請・実績報告・事業化状況報告までの伴走

当事務所が大切にしている7つの考え方

行政書士飯島事務所では、補助金の事業計画策定支援で次の点を大切にしています。

  1. 事業者の覚悟:
    補助金が採択されなくても「やりたい事業の姿」に取り組む意思があるかを最初に確認します。
    この意志が強ければ強いほど、補助金採択に近づきます。
    補助金が取れたら「やる」では弱い。
  2. 廉潔性:
    補助金は納税者のお金が特定の事業者のために使われるもの。
    その意味を共有し、丸投げはお受けしません。
  3. 対話と敬聴:
    公募要領を基準に、審査項目・加点項目を満たすための情報を、経営者との対話から引き出します。
  4. 対象外経費を計上しない:
    採択の可能性と採択後のリスクの両面から、経費を厳しく絞ります。
  5. 一貫したストーリー:
    事業者しか知らない情報を盛り込み、筋の通った計画にします。
  6. 生成AIは補助ツール:
    整理や点検には使いますが、中身は経営者の言葉で作ります。
  7. 採択はゴールではない:
    目的は事業計画の達成です。採択後の実績報告まで支援します。5年間の年次報告(事業化状況報告)ご希望があれば支援します。

申請前のセルフチェック:覚悟と準備はできているか

前半5つは「覚悟」、後半5つは「丸投げ・AI任せになっていないか」の確認です。
チェックが付かない項目が3つ以上あれば、申請の是非から考え直すタイミングです。

  • 補助金が不採択でも、この事業に取り組むつもりがある
  • 自己負担分と、補助金が入るまでの立替資金を用意できる
  • 交付決定まで発注を待っても、事業に支障がない
  • 採択後5年間の報告を担う人と時間を確保できる
  • 賃上げなどの目標を、5年間守り続ける見通しがある
  • 申請する補助金の最新の公募要領を、自分で読んだ
  • 計画書に、自社の顧客の声や現場の数字が入っている
  • 目標の数字と、計上する経費の必要性を自分で説明できる
  • AIが書いた文章は、事実と数字を確認して自分の言葉に直した
  • 支援者の名前・支援内容・報酬額を申請画面に書ける契約になっている

よくある質問

Q1. 補助金はもらわないと損ですか?

A. いいえ、必要な投資でなければ損にはなりません。
補助金には自己負担と立替が必要で、採択後も数年間の報告義務や、目標未達時の返還リスクがあります。
また、全額補助(補助率100%)の補助金はほとんど存在しませんので、申請者の負担があると考えてください。

Q2. 補助金の事業計画書は、専門家に作成を依頼できますか?

A. 作成そのものは依頼できず、申請者自身が作る必要があります。
新事業進出・ものづくり補助金の公募要領では、支援者の助言は認められていますが、申請者以外が作成した場合は不採択・採択取消・交付決定取消の対象です。

Q3. 生成AIで作った事業計画書は分かりますか?

A. AI任せで書いた計画書は、一般論の多さと固有情報のなさからすぐに分かります。
たたき台や文章の点検にAIを使うのは有効ですが、数字や顧客の声など中身は自社の情報で書く必要があります。

Q4. 採択された後は、どんな負担がありますか?

A. 交付申請、期間内の発注・支払い、実績報告、その後の事業化状況報告などが続きます。
新事業進出・ものづくり補助金では、事業化状況報告が5年間で計6回あります。

Q5. 経費は多めに計上したほうが得ですか?

A. 得にはなりません。
計上した経費の大半が対象外なら不採択・採択取消となり、採択後の精査で減額されることもあります。
補助事業に必要かつ対象となっている経費のみを申請してください。

まとめ:補助金は「もらうもの」ではなく「使いこなすもの」

「補助金はもらわないと損」ではありません。
補助金には自己負担と立替があり、採択後も数年にわたって報告と目標達成の責任が続きます。
その覚悟を持てる事業にだけ使うべきものです。

そして事業計画書は、申請者自身が作るもの。丸投げも、AI任せも、読めばすぐに分かります。
経営者の言葉と自社の数字で書かれた計画書こそが、審査でも、採択後の実行でも力を発揮します。