「名前を置いておくだけなら問題ない」は本当でしょうか
「実際に働かなくても、専任宅建士として名前を登録しておくだけ」
——一見、誰にも迷惑をかけていないように思えるかもしれません。
だからこそ、「何がそんなに悪いのか、いまひとつピンとこない」という声を耳にすることがあります。
この記事では、専任宅建士の名義貸しが「なぜ問題なのか」を、ルールの根っこにある考え方からやさしく解説します。
専門用語である「常勤性」と「専従性」という2つのキーワードを軸に解説していきますので、ITや法律に詳しくない方も、判断の土台として読んでいただければと思います。
なお、罰則の重さや発覚の仕組みについては関連記事で詳しく扱いますので、本記事ではまず「考え方」の理解に絞ってお伝えします。
そもそも「名義貸し」とは何か
名義貸しとは、実際には業務に関与しない人が、宅地建物取引業の免許や宅地建物取引士の登録の名義を貸し出す行為を指すとされています。
専任宅建士の文脈で言えば、「実際には勤務していないのに、専任宅建士として名前だけ登録されている状態」が典型例です。
ここで押さえておきたいのは、名義貸しは継続的なものに限られないという点です。
一般に、書面か口頭かを問わず、また継続的か一時的かも問わず禁止されるとされています。
「一度きりだから」「短い期間だけだから」という理由で許されるものではない、と考えておくのが安全です。
ルールの目的は「消費者の保護」
なぜここまで厳しく扱われるのでしょうか。
背景には、宅地建物取引業という仕事の性質があります。
不動産取引は、人生で最も大きな買い物の一つになることも多く、専門的で複雑な内容を含みます。
そこで宅建業法は、専門知識を持つ宅地建物取引士が事務所に常駐し、重要事項の説明など取引の要所で関与することで、消費者が不測の損害を被らないようにする仕組みを設けています。
専任宅建士の設置義務は、まさにこの「消費者を守る門番」を各事務所に確実に置くための仕組みだと考えられます。
名義だけが登録され、実際にはその専門家が現場にいないとすれば、この仕組みは形骸化し、守られるべき消費者が守られないおそれが生じます。
名義貸しが「何が悪いのか」という問いの本質は、ここにあると言えます。
キーワード1:常勤性とは「ちゃんと勤務しているか」
専任宅建士であるためには、「常勤性」と「専従性」という2つの要件を満たす必要があるとされています。
まず常勤性から見ていきます。
常勤性とは、宅地建物取引士として一般的な勤務時間内に、その事務所できちんと勤務している状態を指すと説明されています。
たとえば、スポット的な勤務にとどまるパートやアルバイトの形態では、常勤性を満たさず専任宅建士として認められないとされています。
一方で、派遣社員や自営業を営む人であっても、「一般的な勤務時間は勤務できている」と判断できる実態があれば、認められる場合があるとも説明されています。
つまり、肩書きや契約形態だけで一律に決まるのではなく、「実際にその事務所で常勤しているか」という実態が問われるということです。
名義だけを置く状態は、この常勤性を満たさないことになります。
キーワード2:専従性とは「その仕事に専念しているか」
もう一つの要件が「専従性」です。
これは、その事務所の宅地建物取引業の業務に専ら従事している状態を指すと解されています。
具体的には、他社の役員を兼ねていたり、別の会社の業務に従事していたりすると、専従性を欠くと判断されやすいとされています。
複数の会社で「専任」を掛け持ちすることは、原則として認められません。
「専任」という言葉が示すとおり、一つの事務所の業務に腰を据えて取り組んでいることが求められる、という理解になります。
常勤性と専従性は、いわば「ちゃんとそこにいるか(常勤)」「ちゃんとそこに専念しているか(専従)」という2つの角度から、専任宅建士の実態を確かめるものだと整理できます。
「悪気がなくても」名義貸しと見なされやすいケース
注意したいのは、本人に名義貸しの意図がなくても、実態として名義貸しと同様に扱われてしまう場合があるという点です。
たとえば、業務委託契約だけを結んで専任宅建士として登録しているものの、実際の勤務実態が伴っていないケースは、形式上は契約があっても、実態として常勤性・専従性を欠くと見なされる可能性があるとされています。
「契約書があるから大丈夫」とは限らない、ということです。
また、専任宅建士が退職したあと、名義だけがそのまま残っている状態も危険です。
後任を補充できないまま登録が残っていれば、実態を伴わない名義になってしまいます。
こうした「うっかり」も含めて、実態が伴っているかどうかを定期的に点検しておくことが大切だと考えられます。
大切なのは「形式」より「実質」
ここまで見てきたように、専任宅建士をめぐるルールは、肩書きや書類といった形式ではなく、「実際にその人がその事務所で専任として機能しているか」という実質を重視しています。
裏を返せば、通常の営業時間に勤務し、他社の業務を兼ねず、事務所の責任者として顧客対応や意思決定に実際に関与している
——こうした実態をきちんと備えていれば、立入検査や免許更新の際にも問題は生じにくいと考えられます。
名義貸しを避けるという守りの発想だけでなく、「実質を伴った体制を整える」という前向きな視点で取り組むことが、結果として事業の安定につながると言えそうです。
「自社の専任宅建士の体制が、実態としてきちんと要件を満たせているか不安」という場合は、早めに点検しておくと安心です。
当事務所では、宅建業免許の要件確認や体制整備のご相談を承っていますので、お気軽にお問い合わせください。
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