「専任が辞めてしまった」「人が見つからない」という切実な悩み
宅地建物取引業を営むうえで避けて通れないのが、専任の宅地建物取引士(以下「専任宅建士」)の確保です。
「専任が急に退職した」「募集しても応募が来ない」「開業したいが宅建士のあてがない」
——こうした悩みは、特に地方や小規模な事業者で深刻だと指摘されています。
このとき、「報酬を払うので名前だけ貸してほしい」といった、いわゆる名義貸しの誘いが生じやすくなります。
月数万円程度の報酬で名義だけを借りる契約が一部で横行しているとの指摘もあります。
しかし、結論から申し上げると、名義貸しは法律で明確に禁止されており、発覚した場合のリスクは報酬とは比較にならないほど大きいと考えられます。
本記事では、なぜ違法なのか、どう発覚するのか、そして困ったときにどう解決すべきかを整理します。
そもそも「専任宅建士の設置義務」とは
宅地建物取引業法(以下「宅建業法」)第31条の3第1項は、事務所等に成年で専任の宅地建物取引士を置くことを義務づけています。
事務所の場合、その業務に従事する者の数に対し、5人に1人以上の割合で専任宅建士を設置する必要があるとされています。
たとえば従事者が11人なら、5分の1は2.2人となるため、3人以上の専任宅建士が求められる計算になります。
ここで重要なのが「専任」の意味です。
専任とは、その事務所に「常勤」し、宅地建物取引業に「専従」している状態を指すと解されています。
一般的な勤務時間に勤務していること(常勤性)と、他社の業務などを兼ねていないこと(専従性)の両方を満たす必要があるとされ、名義だけを置いて実際には勤務していない状態は、この要件を満たしません。
なお、宅建業法第31条の3第3項は、専任宅建士が退職等で不足した場合、2週間以内に必要な措置を執らなければならないと定めています。
この期間を過ぎて放置すると、監督処分の対象になり得るとされています。
なぜ名義貸しは違法なのか
名義貸しが禁止される根拠は、複数の条文にまたがります。
まず宅建業者側について、宅建業法第13条第1項は、自己の名義をもって他人に宅地建物取引業を営ませてはならないと定めています。
事前の承諾だけでなく事後の承諾も、また継続的か一時的かを問わず禁止されるとされています。
宅建士側についても、宅建業法第68条などが、実際に従事していない事務所の専任宅建士である旨の表示を許す行為などを規制しているとされています。
つまり、名義を貸す側(宅建士)も、借りる側(業者)も、いずれも法に抵触し得るということです。
この点について、最高裁判所の令和3年6月29日の判決では、宅建業者が無免許者に名義を貸し、無免許者がその名義で宅地建物取引業を営む行為は、免許制度を潜脱するもので反社会性が強いとされ、名義を借りる旨の合意は公序良俗に反し無効と判断されています。
司法の場でも、名義貸しは厳しく評価されていることがうかがえます。
どのように発覚するのか
「黙っていればわからないのでは」という考えは、現実とは大きく異なると考えられます。
名義貸しは、複数のルートから発覚し得ると指摘されています。
具体的には、行政による立入検査での勤務実態の確認、他社や消費者からの通報、免許の更新時や新規申請時の常勤性の審査、さらに社会保険・労働保険の加入状況や税務関係の記録との突合などが挙げられます。
専任宅建士は事務所に常勤していることが前提のため、別の会社で社会保険に加入していたり、勤務実態を示す記録が伴わなかったりすると、整合性の取れない点から実態が明らかになりやすいとされています。
つまり、名義貸しは「いつかバレるかもしれない」ではなく、「複数の入り口から発覚し得る」構造の中にあると捉えるのが実態に近いと考えられます。
発覚した場合のリスク
発覚時の不利益は、業者・宅建士の双方に及びます。
宅建業者側は、名義貸しの禁止に違反すると、指示処分や業務停止処分の対象となり、情状が特に重いときは免許取消処分を受けることもあるとされています(宅建業法第65条・第66条関連)。
免許取消に至れば、事実上の廃業を余儀なくされる可能性があります。
宅建士側は、1年以内の期間を定めた事務禁止処分や、登録消除処分の対象になり得るとされています。
せっかく取得した資格を失うリスクがあるということです。
さらに刑事罰の可能性もあります。
名義貸しによって他人に宅地建物取引業を営ませた場合、3年以下の拘禁刑(従来の懲役にあたる刑)もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科とされていると説明されています(宅建業法第79条関連)。
月数万円程度とされる名義貸しの報酬と、廃業・資格喪失・刑事罰というリスクを比べれば、割に合わない行為であることは明らかだと考えられます。
名義貸しに頼らない「適法な代替策」
では、専任宅建士を確保できないとき、どうすればよいのでしょうか。
実務上は、次のような正攻法が選択肢として挙げられています。
策1:経営者自身が宅建士資格を取得する方法です。
個人業者や法人の役員が宅建士である場合、その者は専任宅建士とみなされる扱いがあるとされており、根本的な解決につながり得ます。
策2:正規の雇用による確保です。
常勤・専従の実態を伴う形で宅建士を採用すれば、要件を適法に満たせます。
採用が難しい場合は、求人条件の見直しや、宅建士資格の取得支援を打ち出して人材を呼び込む工夫も考えられます。
策3:事業計画・組織体制の見直しです。
事務所の数や従事者数に応じて必要な専任宅建士数は変わるため、開設のタイミングや拠点の構成を調整することで、無理のない体制を組める場合があります。
いずれの方法も、「実態として専任である」ことを客観的に示せる体制を整えることが共通の鍵になります。
形式だけでなく実質を伴わせることが、立入検査や免許更新の際にも問題を生じさせない最大のポイントだと考えられます。
困ったときは、早めに専門家(行政書士)へ
専任宅建士が不足したまま2週間を超えると、それ自体が監督処分のリスクにつながります。
「人が見つからない」という焦りから名義貸しに傾く前に、適法な選択肢を早めに検討することが重要です。
当事務所では、宅建業免許の新規取得・更新の支援、専任宅建士の要件確認、組織体制の整え方のご相談を承っています。
「専任が辞めてしまった」「このままで要件を満たせているか不安」といった段階からのご相談も可能です。
免許を守りながら事業を続けるための現実的な進め方を、行政書士の立場でご提案いたしますので、お気軽にお問い合わせください。
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