「専任の宅建士には、月5万円も払えば足りますよね」「社長が専任になるなら、報酬はいくらでもいいのでは」。
宅建業免許の新規申請や更新の前に、こうしたご相談をいただくことがあります。

2026年10月1日からは東京都の最低賃金が時間額1,280円に改定され、給与の見直しを迫られている事業者も多いはずです。
結論から言うと、「月5万円で問題ない」とは言えません。
この記事では、専任宅建士の給与・報酬と常勤性の関係を、従業員の場合と役員の場合に分けて整理します。

この記事の要点

  • 常勤性は「週○時間」という数字ではなく、その事務所の通常の勤務時間に実際に勤務しているかで判断されます。
  • 従業員であれば最低賃金法が適用され、本人が同意していても、最低賃金に満たない部分は無効です。
  • 役員は肩書ではなく働き方の実態で判断されます。どの立場でも、契約・勤怠・給与・社会保険の記録が同じ勤務実態を示しているかが重要です。

1.「週何時間」より先に見られるのは、通常の勤務時間に勤務した実態

専任宅建士の「専任」について、国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、次の趣旨で説明しています。

  • 原則として、事務所に常勤(宅建業者の通常の勤務時間を勤務すること)して、専ら当該事務所の宅建業の業務に従事する状態をいう
  • ITを活用して適切な業務ができる体制を確保した上で、事務所以外で通常の勤務時間を勤務する場合も含む

つまり、基準は「その宅建業者の通常の勤務時間」です。
国の解釈・運用の考え方に「週30時間以上」「週40時間以上」といった具体的な時間数の基準は示されていません。

たとえば、会社が週5日・1日8時間営業なのに、専任宅建士が週3日しか勤務しない場合は、通常の勤務時間の一部にしか勤務していないことになります。


常勤性と専従性の定義そのものは、次の記事で詳しく解説しています。
・専任宅建士の「常勤性」とは何か?テレワーク・在宅勤務は認められるか

本記事では、そこから一歩進んで「給与・報酬」の面から見ていきます。

2.東京都は時給1,280円に|月5万円は「月約39時間分」にすぎない

東京労働局は、東京都最低賃金を時間額1,280円に改正し、令和8年(2026年)10月1日から効力が発生しています。
前年から54円の引上げです。
都内で事業を営む使用者が、この額を下回る賃金を支払うことは最低賃金法違反となります。

従業員の場合の基本ルール

専任宅建士を従業員(労働者)として雇う場合、最低賃金法が適用されます。ポイントは次の3つです。

  1. 使用者は、最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません(最低賃金法4条1項)。
  2. 最低賃金に達しない賃金を定めた契約は、その部分が無効になります。
    無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(同条2項)。
  3. 労使が合意していても同じです。
    厚生労働省は、双方の合意の上で低い賃金を定めても無効であり、不足分を支払う必要があると説明しています。

地域別最低賃金を下回る賃金しか支払わなかった場合は、50万円以下の罰金の対象となり得ます。
法人の従業員が違反行為をしたときは、その法人も罰せられる規定(両罰規定)があります。

「月5万円」を最低賃金で換算するとどうなるか

月給制の場合は、月給を月平均の所定労働時間で割って時間単価を出し、最低賃金と比べます。
東京都の1,280円で計算すると、次のようになります。

勤務パターン月平均所定労働時間(目安)最低賃金ベースの下限(概算)
週5日・1日8時間(週40時間)約173時間約22.2万円
週5日・1日7時間(週35時間)約152時間約19.4万円
週3日・1日8時間(週24時間)約104時間約13.3万円
月額5万円約39時間―

※月平均所定労働時間=週の所定労働時間×52週÷12か月で算出した概算です。
 実際は就業規則の年間休日などで変わります。

月5万円は、最低賃金で換算すると月約39時間分の労働にしかなりません。
週5日・1日8時間という「通常の勤務時間」の勤務(月約173時間)とは、大きな開きがあります。

計算するときの注意点

  • 額面と手取りを混同しない。
    比べる対象は、社会保険料などを引く前の賃金です。
  • すべての手当が含まれるわけではない。
    賞与、時間外・休日・深夜の割増賃金、通勤手当などは、最低賃金の対象となる賃金から除かれます。
    判断に迷う場合は、労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。

3.勤務実態と給与の適法性は「別の問題」。ただし書類はつながって見られる

ここで整理しておくべきは、次の2点です。

  • 最低賃金未満だからといって、勤務の実態がなくなるわけではない
  • 勤務の実態があるからといって、低すぎる給与が適法になるわけでもない

つまり、常勤性の問題と、賃金の適法性の問題は別々に確認し、両方を満たす必要があります。

確認される資料の例

東京都は、専任宅建士が通常の勤務時間外に副業を行う場合の確認資料として、専従性が分かる公的書類を求めています。
具体的には、次のようなものが例示されています。

  • 健康保険証の写し(氏名、生年月日、従事先の事業所名が分かるもの)
  • 標準報酬月額決定通知書、住民税特別徴収税額通知書、雇用保険の事業所別被保険者台帳の写し
  • 源泉徴収簿、賃金台帳、賃金の入金記録のある預金通帳など、賃金の支払実績が確認できるもの
  • 役員の場合は、直近決算の法人税申告書の表紙と役員報酬明細

これは副業を伴うケースの資料です。
申請の内容や申請先によって求められる書類は異なりますので、事前に申請先へ確認してください。
ただ、「その事務所で実際に働いていること」を、給与や社会保険の記録で裏づける発想は共通しています。

実務で多い失敗(よくあるケース)

実在の特定事例ではなく、一般的によく見られる形として挙げます。

  1. 契約書は常勤、給与の実態は少額。
    契約書上は週5日勤務なのに、給与が月数万円にとどまり、説明がつかない。
  2. 社会保険の加入状況と勤務の説明が合わない。
    常勤と説明しているのに、社会保険の記録がその事務所と結びついていない。
  3. 勤怠の記録がない。
    勤務していたことを示す出勤簿や勤怠データがない。
  4. 他社での勤務や役員就任が残っている。
    転職・就任時の手続漏れで、他社の記録が残ったままになっている。

給与の是正や社会保険の手続は、即日では終わりません。
申請の直前に気づくと間に合わないことがあるため、早めの点検をおすすめします。

なお、東京都の公表資料で、専任宅建士の報酬額に下限を定めた基準は、当事務所の確認した範囲では見当たりませんでした。
ただし、基準がないことは「低くてよい」ことを意味しません。
個別の判断は各申請先に確認してください。

4.役員が専任宅建士になる場合|報酬が低くてよいとは限らない

代表取締役や取締役が専任宅建士になるケースでは、従業員とは考え方が変わります。

労働者に当たるかは「実態」で決まる

最低賃金法は労働者に適用されます。
労働者に当たるかどうかは、契約の名称ではなく、働き方の実態で客観的に判断されます。
厚生労働省の資料では、指揮監督下で労務を提供しているか、報酬がその労務の対価かが基準とされています。

一般に、代表権や業務執行権を持つ役員は、労働者に当たらないとみなされることが多いです。
一方、役員であっても、部長などの職を兼ねて賃金を受けている兼務役員は、その部分について労働者として扱われる場合があります。

したがって、「役員にすれば最低賃金の問題を避けられる」という考えは誤りです。
実態が従業員と変わらなければ、肩書だけでは判断が変わりません。
個別の判断は、労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。

※従業員はもちろん、役員(名称を問わない)が労働者にあたる場合は、最低賃金を確保してください。

役員でも、常勤性・専従性は別に必要

役員報酬の問題がクリアできても、専任宅建士としての要件は別に必要です。
東京都の手引では、次のような場合は専任の取引士に就任できないとされています。

  • 当該事務所の勤務時間内に、他の法人の代表取締役、代表者、常勤の役員として業務に従事している
  • 通常の勤務時間に、当該事務所に勤務できない状態にある
  • 社会通念上、通常の通勤が可能とみなせない場所に住んでいる

他法人の代表者を兼ねる場合は、東京都の副業の取扱いで、勤務時間外にのみ行われることが確認できれば認められる場合があります。
ただし、他法人の代表取締役が1名のみの場合は、非常勤とは見なされません。

役員報酬の金額設計は税務の領域

役員報酬の額は、法人税などの税務に直結します。
金額の設計は、提携の税理士と連携して検討することをおすすめします。
行政書士は、専任宅建士の勤務条件や兼業状況が免許の要件に合うかという点を確認します。

5.パート・副業・テレワークの位置づけ|東京都の取扱い早見表

ケース東京都の公表内容(要約)
パート雇用形態の名称ではなく、通常の勤務時間に勤務しているかで判断される
副業令和6年11月1日以降、通常の勤務時間外の副業は、事前に誓約書や専従性が分かる公的書類を提出して審査を受けます。
法令違反、通常の通勤への支障、同業他社への勤務などは認められない
テレワーク常勤の場合と同様に業務ができる環境、通勤可能な距離、勤怠記録などの客観的な資料が必要

詳しくは次の記事をご覧ください。
・宅建の名義貸しにあたる7つのNG例|専任取引士の常勤性・専従性の要件

6.自社でできるチェックリストと判断フロー

チェックリスト

  • 専任宅建士は、従業員か、役員か、兼務役員か
  • 従業員なら、月給(額面)÷ 月平均所定労働時間が1,280円(東京の場合)以上か
  • 雇用契約書・勤怠記録・給与台帳・社会保険の4点が、同じ勤務実態を示しているか
  • 他社での勤務、他社の役員就任、副業はないか
  • 事務所から通勤可能な距離に住んでいるか
  • 退職・就任の変更があった場合、変更届を出したか

判断フロー

  1. 従業員の場合
    → 最低賃金を確認(不足があれば是正)→ 契約・勤怠・給与・社会保険の整合を確認 → 不安があれば申請先に確認
  2. 役員の場合
    → 労働者性(兼務役員か)を確認 → 他社の代表・常勤役員への就任がないか確認 → 役員報酬明細など、記録の整合を確認

今やること

  • 10月1日以降の給与が時間単価が最低賃金額を下回っていないか、賃金台帳で確認する
  • 専任宅建士の契約書、勤怠、給与、社会保険の記録を並べて見る
  • 食い違いがあれば、申請や更新の前に是正する

よくある質問(FAQ)

Q1.専任宅建士の給料に法律上の下限額はありますか?

専任宅建士の報酬額に下限を定めた基準は、当事務所が確認した公表資料の範囲では見当たりません。
ただし、従業員として雇う場合は最低賃金法が適用され、東京都では2026年10月1日から時間額1,280円以上の賃金が必要です。
個別の取扱いは、各申請先にご確認ください。

Q2.週30時間勤務でも専任宅建士になれますか?

週30時間かどうかではなく、その事務所の通常の勤務時間に勤務しているかで判断されます。
会社の通常の勤務時間が週30時間なら問題になりにくい一方、会社が週40時間営業なのに週30時間しか勤務しない場合は、通常の勤務時間の一部にとどまります。

Q3.本人が同意していれば月5万円でも問題ありませんか?

いいえ、問題があります。
従業員の場合、最低賃金に達しない賃金を定めた契約は、本人の同意があってもその部分が無効になり、使用者は不足分を支払う必要があります。
時間額(時給)が最低賃金を下回っている場合は、勤務時間の点で常勤性を疑われますので、早急に改善してください。

Q4.代表取締役が専任宅建士になる場合、役員報酬に最低額はありますか?

代表権や業務執行権のある役員は、一般に労働者に当たらないため、最低賃金法の対象外となることが多いです。
ただし、役員報酬の下限が明示された基準があるかは別の問題で、常勤性・専従性の実態は別に確認されます。
個別の判断は、労働基準監督署や申請先に確認してください。

Q5.契約や重要事項説明のある日だけ勤務する形でも専任になれますか?

認められません。
専任宅建士には、その事務所の通常の勤務時間に常勤することが求められるため、必要な日だけ呼び出される形では要件を満たしません。

まとめ

  1. 常勤性は「週○時間」の数字ではなく、通常の勤務時間に勤務した実態で見る
  2. 従業員は最低賃金を確認し、役員は労働者性と常勤性・専従性を別々に確認する
  3. 契約・勤怠・給与・社会保険の記録を揃え、必要に応じて申請先の行政庁に確認する

専任宅建士の採用や役員の就任を検討しているものの、勤務日数・給与・兼業の条件に不安がある場合は、免許申請の前に整理しておくことが大切です。

なお、最終的な判断は、国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」、各申請先の宅地建物取引業免許申請の手引などでご確認ください。

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