「うちは不動産取引で違反なんてしていない」。
そう言い切れる会社でも、宅建業の免許を失うことがあります。

2026年10月、東京都知事は東証上場の不動産会社の宅建業免許を取り消しました。
会社の開示によると、理由は取引上の違反ではなく、社外取締役1名が宅建業法の欠格事由に当たったことです。

この記事では、事例の内容、役員1人で会社の免許が取り消される場合、中小の宅建業者が今確認すべきことを整理します。

この記事の要点

  • 役員のうち1人でも欠格事由に当たると、会社の宅建業免許は取り消されます(宅建業法66条1項3号)。
  • 「役員」には社外取締役や非常勤の取締役も含まれ、会社法では取締役でいられても、宅建業法では欠格になる場合があります。
  • 就任前の確認、役員変更の届出、免許更新前の棚卸し(チェック)の3つで、リスクは下げられます。

2026年10月に何が起きたか|上場企業の宅建業免許が取り消された

東京都知事は2026年10月5日付で、東証上場の不動産会社の宅建業免許を取り消しました。
会社は翌10月6日に、この処分を適時開示しています。以下は、その開示内容の要約です。

項目開示された内容
処分庁・処分日東京都知事・2026年10月5日
処分内容宅建業免許の取消し(宅建業法66条1項3号に基づく)
処分の理由社外取締役(監査等委員)1名が過失運転致傷の罪で禁錮1年2か月(執行猶予3年)の刑に処せられ、判決は令和7年7月17日に確定していた
欠格に当たった時点令和8年8月18日付の免許更新申請の時点で、当該取締役が執行猶予期間中だった
会社の説明宅建業務における法令違反に起因するものではない
会社の対応当該取締役の辞任を前提に、免許の再取得に向けた準備を始める

時系列で並べると、判決の確定から約1年後の免許更新申請の時点で、役員の欠格が問題になった流れです。

なお、報道では、会社への申告の有無も取り上げられています。
ただ、会社の開示には書かれていないため、この記事では扱いません。

この事例から読み取れる3つの点

  1. 取引上の違反がなくても、免許は取り消される。
    会社自身が宅建業務の違反ではないと説明しています。
  2. 問題になったのは、役員の個人的な刑事処分だった。
    会社の業務とは別の出来事が、会社の免許に直結しました。
  3. 上場企業に限った話ではない。
    2024年11月にも、高知県で取締役の欠格事由を理由とする免許取消しが公表されています(高知県の処分情報)。

なぜ役員1人の欠格で、会社の免許が取り消されるのか

宅建業法は、免許を受けた法人の役員のうちに欠格事由に当たる人が出たとき、免許を取り消さなければならないと定めています(66条1項3号)。
「取り消すことができる」ではなく、必ず取り消す定めです。

免許の基準には、会社そのものだけでなく、法人の役員や一定の使用人が含まれます。
法人の信用は、そこに関わる人の適格性と一体で見られているためです。
申請時だけでなく、免許を受けた後も、当然この基準は続きます。

会社法の「取締役の欠格」とは別の物差し

ここで注意したいのが、会社法の基準との違いです。

取締役の欠格事由は、会社法に別の定めがあります。
罪名や刑の内容によっては、執行猶予中の人が取締役に就ける場合があります。
つまり、取締役会や株主総会の手続きは適法でも、宅建業法では免許を失わせる存在になりえます。

観点会社法宅建業法
見るもの取締役として就任できるか免許を維持できるか
欠格の定め会社法の規定宅建業法の免許の基準
執行猶予中の扱い罪名や刑の内容により、就任できる場合がある禁錮・拘禁刑以上なら、猶予期間中は欠格
結果取締役の地位の問題会社の免許の取消し

就任の手続きを会社法だけで確認していると、宅建業法で見落とします。
上場企業でも、中小企業でも同じです。

更新申請の時点でも確認される

今回の事例では、免許の更新申請の時点で欠格に当たっていたことが、処分の理由に挙げられています。
免許の更新時は、役員の状況があらためて問われる場面です。
「新規取得のときに確認したから大丈夫」とは言えません。

欠格になる「役員」と「刑」の範囲

欠格の対象になる役員は、肩書きよりも実質で決まります。刑の種類によっても、欠格になるかどうかが分かれます。

「役員」に含まれる人

免許の基準でいう役員は、業務を執行する社員、取締役、執行役、またはこれらに準ずる人です。
さらに、相談役や顧問など、名称を問わず、これらと同等以上の支配力を持つと認められる人も含まれます。
国土交通省の解釈運用では、名刺や案内状に会長や相談役などの役職名を使っているかが、判断の一つの目安とされています。

立場扱い
代表取締役・取締役役員に含まれる
社外取締役・非常勤の取締役役員に含まれる(今回の事例は社外取締役)
監査等委員である取締役取締役なので役員に含まれる
相談役・顧問・会長などの名称の人実質的な支配力で判断される
監査役変更届の対象として扱われる。欠格の確認でも対象に含めておくのが安全

「非常勤だから」「名前を貸しているだけだから」では通用しません。

欠格になる刑の範囲

欠格になるのは、禁錮・拘禁刑以上の刑と、一定の罪による罰金刑です。

刑の種類宅建業法上の扱い
禁錮・拘禁刑以上刑の執行を終えた日、または執行を受けることがなくなった日から5年間は欠格
執行猶予付きの禁錮・拘禁刑猶予期間中は欠格。猶予期間が満了すれば刑の言渡しの効力が消え、5年を待たずに欠格でなくなる
罰金刑(宅建業法違反、暴力団対策法違反、傷害・暴行・脅迫・背任などの罪)刑の執行を終えた日などから5年間は欠格
罰金刑(上記以外の罪)欠格にはならない

同じ交通事故でも、禁錮以上の刑になれば欠格に当たり、罰金刑にとどまれば当たりません。
刑の重さで線が引かれる点は、あまり知られていません。

執行猶予の扱いは、当事務所の「宅建業免許の欠格要件」の記事でも詳しく説明しています。

役員以外にも欠格事由はある

刑事罰のほかにも、破産手続開始の決定を受けて復権していない場合や、暴力団員等に当たる場合などが欠格事由です。
どれも、役員のうち1人に当てはまるだけで、会社の免許に影響します。

免許が取り消されると何が起きるか|経営への影響

免許が取り消されると、新たな宅建業の取引ができなくなります。
ただし、取消し前に結んだ契約は、結了までの範囲で続けられます。

影響内容
新規の取引宅建業に当たる業務を新たに行えない
既存の契約取消し前に結んだ契約は、取引を結了する目的の範囲内で、なお宅建業者とみなされる(宅建業法76条)
再取得欠格の役員が退任するなどして状況が解消すれば、あらためて免許を申請する道がある。審査の間は営業できない
信用面免許取消しなどの監督処分は、都道府県のホームページで公表される例が多い(公表期間は処分から5年間の自治体がある)。国土交通省のネガティブ情報等検索サイトでも調べられる

今回の会社も、当該取締役の辞任を前提に、免許の再取得の準備を始めると開示しています。
役員の問題を解消すれば、再び申請する余地はあります。
ただし、審査にかかる期間や結果は個別の事情で異なります。

見落としやすい2次的な影響

  • 取引先や金融機関との関係で、取引条件の見直しを求められる可能性があります。
  • 進行中の案件の扱いを、取引の相手方ごとに対応する必要が出ます。
  • 再取得の申請から免許が下りるまでの間は、新たな宅建業の取引ができません。

免許は、事業を続ける前提そのものです。
取消しになってから対応するのでは、遅すぎます。

中小の宅建業者が今すぐできる役員チェック|実務で多い見落としと予防策

予防の基本は、役員の就任前・就任後・更新前の3つの場面で、宅建業法の基準を確認することです。

実務で多い5つの見落とし

免許の手続きに関わる中で、次のような見落としは珍しくありません。
実在の特定事例ではなく、一般的によくある傾向としてお読みください。

  1. 会社法の確認だけで、宅建業法の確認をしていない。
    取締役に就任できるかと、免許に影響しないかは別の問題です。
  2. 非常勤や名目上の役員を、「役員ではない」と整理している。
    相談役や顧問も、実質的な支配力があれば役員として扱われます。
  3. 役員の就任・退任後の変更届を出していない。
    多くの都道府県で、変更後30日以内の届出が必要です。
    変更の手続きが完了していないと、免許の更新ができない自治体がほとんどです。
  4. 更新の直前になって、はじめて役員の状況を確認する。
    更新の申請は、有効期間の満了日の90日前から30日前までの間に行います。
    直前の確認では、対応の時間が足りません。
  5. 本人の状況を、会社が把握する仕組みがない。
    役員個人の刑事手続きは、会社が知る機会が限られます。
    就任時の誓約と、定期的な確認の仕組みが必要です。

役員チェックリスト

役員の就任前

  • 社外・非常勤・相談役・顧問を含めた、役員の一覧を作った
  • 候補者から、宅建業法の欠格事由に当たらない旨の誓約を受けた
  • 会社法上の確認と、宅建業法上の確認を、別々に行った

役員の就任後・退任後

  • 就任・退任から30日以内に、変更届を提出した(東京都の最新の手引きで期限と書類を確認)
  • 役員の氏名が変わったときも、届出が必要なことを把握している
  • 役員変更の登記は、司法書士と連携して進めている

毎年・更新の前

  • 年に1回、役員全員に、欠格事由に当たらないかを書面で確認している
  • 免許の有効期間の満了日と、更新申請の期間(90日前〜30日前)を把握している
  • 更新の申請前に、役員の状況と変更届の漏れを見直した

万一、欠格に当たる可能性が出たとき

  • 事実関係を確認し、早めに専門家と管轄の窓口に相談する流れを決めている
  • 役員の退任など、会社として取れる手段を整理している

役員の刑事手続きに関する情報は、個人情報の中でも慎重な取扱いが必要です。
確認は、本人の誓約や申告を基本にして、情報の管理にも配慮してください。
(他人の前科などを調べる方法はありません)

欠格に当たった時点で、取消しの対象になりえます。
判明した後にどう対応すべきか、取消しを避けられるかは、個別の事情で異なります。
自己判断せず、早めに相談することが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 役員が1人欠格になるだけで、会社の宅建業免許は取り消されますか?

はい。
役員のうちに欠格事由に当たる人が出たときは、免許を取り消さなければならないと宅建業法66条1項3号に定められています。
会社の取引に違反がなくても、対象になります。

Q2. 社外取締役や非常勤の役員も対象ですか?

はい。
社外取締役も非常勤の取締役も、免許の基準でいう役員に含まれます。
相談役や顧問も、取締役などと同等以上の支配力があれば役員として扱われます。

Q3. 執行猶予中の役員は、欠格になりますか?

禁錮・拘禁刑以上の刑の執行猶予中は、欠格になります。
猶予期間が満了すると刑の言渡しの効力が消えるため、5年を待たずに欠格ではなくなります。

Q4. 免許が取り消されたら、すでに結んだ契約はどうなりますか?

取消し前に結んだ契約は、取引を結了する目的の範囲内で、なお宅建業者とみなされて進められます(宅建業法76条)。
ただし、新たな宅建業の取引はできません。

まとめ|役員の確認は、免許を守る「経営の仕事」

役員1人の欠格で、会社の宅建業免許は取り消されます。
会社が取引で違反していなくても、同じです。

今週やること

  1. 社外・非常勤・相談役・顧問を含めた、役員の一覧を作る
  2. 全員について、欠格事由に当たらないことを確認し、記録に残す
  3. 変更届の漏れと、免許の更新時期(満了日の90日前〜30日前)を確認する
宅建業免許(実務解説)コラム

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