はじめに:行政書士が国の予算編成方針に載った

2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」(通称:骨太の方針2026)に、行政書士制度に関する記載が盛り込まれました。
日本行政書士会連合会(宮本重則会長)は、これを「行政書士制度発足以来初」の明記であるとして、会長談話を発表しています。

「骨太の方針」というと、AI・半導体や量子技術など、いわゆる戦略17分野への官民投資が話題になることが多く、行政書士のような士業の話とは縁遠い印象を持たれるかもしれません。

しかし今回、骨太の方針は成長分野への投資だけでなく、「地方行政の基盤強化」という項目の中で、行政書士制度にも触れています。

この記事では、実際に何が書かれたのか、なぜそこに書かれたのか、そして中小企業経営者にとってどんな意味を持つのかを解説します。

1. そもそも「骨太の方針」とは何か

「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)は、政府が毎年6〜7月頃に閣議決定する、翌年度以降の予算編成や政策運営の基本方針です。
ここで示された方向性が、その後の予算編成や税制改正、各種の補助金・制度設計に反映されていきます。

2026年版の骨太の方針で特に注目されているのは、AI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、宇宙、造船、創薬・先端医療、量子、ロボットなど、いわゆる「戦略17分野」への官民投資の方針です。
投資規模の大きさから、経済ニュースではこちらが中心的に取り上げられています。

一方で、骨太の方針は成長分野への投資だけを扱っているわけではありません。
第3章「責任ある積極財政に基づく『中長期経済財政計画』」には、社会保障、地方行財政、教育など、分野ごとの重要課題と取組方針が並んでおり、「持続可能な地方行財政基盤の強化」もその一項目です。
行政書士制度への言及は、この地方行財政の項目の中にあります。

華やかな成長戦略の陰に隠れがちですが、士業や地方行政の実務に携わる立場からは、こちらの記載こそが重要な意味を持ちます。

2. 実際に何が書かれたのか

記載箇所と原文

行政書士制度への言及は、第3章「責任ある積極財政に基づく『中長期経済財政計画』」の「重要課題と取組方針の(4)持続可能な地方行財政基盤の強化」にあります。
該当箇所を、前後の文脈を含めてそのまま引用します。

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」等に沿って、自治体AX/DX、地方公共団体のサイバーセキュリティ強化、標準準拠システムへの移行・運用最適化を進める。改正行政書士法を踏まえ、適切な対応を図る。地方からの提案を踏まえつつ、行政サービスの生産性を高めるための改革を進める。

(出典:経済財政運営と改革の基本方針2026)

行政書士に関する記述は「改正行政書士法を踏まえ、適切な対応を図る。」という一文のみです。
新しい制度や具体的な予算措置が書かれているわけではなく、既に成立している改正行政書士法の趣旨に沿って、国・地方公共団体が対応していくという方針が示された形です。

「制度発足以来初」の明記

日本行政書士会連合会は、2026年7月22日付の会長談話で、この記載を「行政書士制度発足以来初」の骨太の方針への明記と位置づけ、「国民のための行政書士制度発展に向けて、大変意義深い」と評価しています。
談話では、国・地方公共団体における改正行政書士法の趣旨に基づく制度運用を、政府が基本方針として明確に位置づけたことの意義を強調しています。

(出典:日本行政書士会連合会)

3. なぜこの文脈で明記されたのか

ここで注目したいのは、行政書士への言及が置かれている文脈です。
引用箇所をもう一度見ると、行政書士法の一文は次の2つの文に挟まれています。

  • :自治体AX/DX、地方公共団体のサイバーセキュリティ強化、標準準拠システムへの移行・運用最適化
  • :地方からの提案を踏まえた、行政サービスの生産性を高める改革

つまり、行政書士制度への言及は、「地方行財政の強化」の中でも、特にデジタル化・行政サービスの生産性向上という文脈の中に置かれています。

単に「士業の制度を整備する」という一般的な位置づけではなく、自治体の窓口業務や許認可事務のデジタル化という、より具体的な政策の流れの中にあると読むことができます。

改正行政書士法には、行政書士のデジタル化対応を努力義務とする規定が含まれており、電子申請やオンライン手続への対応が今後より一層求められる方向性といえます。

4. 背景にある「改正行政書士法」の3つのポイント

骨太の方針が言及している「改正行政書士法」は、令和7年に成立し、2026年1月1日に施行されたものです。
日本行政書士会連合会の会長談話では、この改正の内容として、次の3点が挙げられています。

① デジタル化対応の努力義務規定

行政書士の職責規定の中に、デジタル化への対応が努力義務として盛り込まれました。
電子申請やマイナポータルとの連携など、行政手続のオンライン化に対応していくことが、行政書士の職責の一部として位置づけられています。

骨太の方針の「自治体AX/DX」という文脈との関連が指摘できるのは、主にこの部分です。

② 特定行政書士の業務範囲の拡大

特定行政書士(行政不服申立ての代理ができる行政書士)について、業務範囲が広がりました。
改正前は「自ら作成した申請書類」に関する不服申立てのみが対象でしたが、改正後は「依頼者本人が申請した案件」についても、不服申立ての代理ができるようになったとされています。
これにより、申請から不服申立てまでを一貫して依頼できる場面が広がります。

③ 業務制限規定の明確化

「いかなる名目によるかを問わず、報酬を得て業として行政書士業務を行うこと」が、無資格者に対する禁止行為として明確化されました。
手数料やコンサルティング料といった名目を使った、無資格者による書類作成代行への対策と位置づけられています。

これは、補助金申請の急増に伴って問題視されてきた、無資格コンサルによる申請代行トラブルへの対応という文脈で語られることが多い改正点です。

詳しくは、
関連記事:2026年行政書士法改正で何が変わった?業界への影響と経営者が知るべきポイント
関連記事:行政書士法改正、施行半年後の業界動向まとめ|あれからどう変わったか?
でも解説していますので、あわせてご覧ください。

5. 数字で見る行政書士

日本行政書士会連合会の会長談話では、行政書士の現状として、次の数字が示されています。

  • 全国の行政書士数:約5万6千人
  • 事務所の所在市区町村数:1,534市区町村(全市区町村に対するカバー率:88.1%)
  • 特定行政書士数:約6千人

(出典:日本行政書士会連合会)

カバー率88.1%という数字は、行政書士が全国のほぼどの地域にも存在し、住民や事業者にとって身近な相談先になっていることを示しています。
これは、「地方行財政基盤の強化」という章立ての中で行政書士に言及する際の、一つの背景事情と考えられます。
行政手続のデジタル化を進めるにあたって、全国に広く分布する行政書士が、住民・事業者への実務的なサポート役として位置づけられる可能性が高いと考えられます。

6. 中小企業経営者にとっての意味

今回の記載は、新しい補助金や制度の創設を告げるものではありません。
ただし、実務の面では、次のような意味を持つと考えられます。

無資格コンサル対策が、国の方針としても後押しされた
補助金申請などをめぐる無資格者によるトラブルが社会問題化する中、業務制限規定の明確化という法改正の内容が、国の基本方針の中でも位置づけられたことになります。
申請代行を依頼する際に、行政書士資格の有無を確認することの重要性が、今後さらに意識される可能性があります。

不服申立てまで一貫した対応を頼める場面が広がる
特定行政書士の業務範囲拡大により、たとえば建設業許可の更新が認められなかった場合など、行政処分に対する不服申立てが必要になった際に、申請時から関わっていない特定行政書士にも代理を依頼できる場面が広がったとされています。

行政手続のオンライン化が、今後さらに進む可能性がある
自治体DXの文脈での言及であることから、電子申請やオンラインでの手続対応が、行政書士の実務としても、行政サービスの窓口としても、引き続き重視されていくと見込まれます。

7. 今後の注目点

骨太の方針は、あくまで方向性を示す文書であり、「改正行政書士法を踏まえ、適切な対応を図る」という一文自体には、具体的な予算措置や制度設計は書かれていません。
今後、次のような点が具体化されていくかどうかが注目されます。

  • デジタル化対応の努力義務が、実務上どのように運用されていくか
    (行政書士のITレベルがどの程度要求されるか?)
  • 自治体DXの推進策と、行政書士の業務がどう連携していくか
    (各種申請が電子申請に移行してきています)
  • 特定行政書士の業務範囲拡大が、実際の相談・依頼の場面でどう活用されていくか
    (行政処分の不服申し立て件数が今後増えるか?)

現時点では、これらについて具体的な方針は示されていません。
今後の予算編成や制度の詳細について、引き続き動向を注視する必要があります。

まとめ

  • 骨太の方針2026に、行政書士制度に関する記載が「制度発足以来初」として盛り込まれた
  • 記載は「地方行財政基盤の強化」の項目の中にあり、自治体DXや行政サービスの生産性向上という文脈に位置づけられている
  • 直接の根拠は、2026年1月施行の改正行政書士法(デジタル化対応の努力義務、特定行政書士の業務範囲拡大、業務制限規定の明確化)
  • 新しい制度の創設ではなく、既存の法改正への「適切な対応」を国の方針として位置づけたもの
  • 中小企業経営者にとっては、無資格コンサル対策や行政手続のデジタル化という、実務上の流れとして捉えておくべき