「ChatGPTに聞けば、建設業許可の申請書も作れるのでは?」「専門家に頼む費用を抑えたい」。
生成AIが身近になり、そう考える経営者の方が増えています。

確かにAIを使えば、様式の記入例や必要書類の一覧はすぐに手に入ります。
しかし許認可は、書類の見た目が整っていても、中身の要件を満たしていなければ下りません。
さらに、書類作成を「誰に任せるか」を誤ると、別のリスクを抱えることもあります。

この記事では、建設業許可と宅建業免許を例に、AIで申請書を作るときに経営者がつまずく落とし穴と、その防ぎ方を行政書士が解説します。

この記事の要点

  1. 自社の申請書を、自社で(AIを使って)作ること自体は問題ありません。
  2. ただしAIは「自社が要件に当てはまるか」「証明できる資料がそろうか」を判断できず、古い制度のまま答えることもあります。
  3. 他人に作成を任せるなら、相手が行政書士かどうかの確認が欠かせません。
    他の分野の専門家でも、行政書士の登録がなければ報酬を得て作成することはできません。

AIで作れる部分、作れない部分

生成AIが得意なのは「一般的な情報を整理して文章にすること」です。
一方、許認可で問われるのは「あなたの会社が、書類で証明できる形で要件を満たしているか」です。
この差が、AI任せの申請でつまずく根本原因です。

AIで作れる・調べられる部分AIでは判断できない部分
申請の大まかな流れ、必要書類の一覧のたたき台自社の役員や技術者の経歴が、要件に当てはまるか
様式の記入例、用語の説明どの資料で経験や実績を証明するか
手引きの要点整理申請先ごとの運用や、最新の法改正への対応
文章の体裁の整理記載内容が事実と合っていることの確認

書類の見た目がどれほど整っていても、許可・免許の審査で見られるのは内容と証明資料です。
AIの出力は「下書き」であって、「申請できる書類」ではありません。

経営者がつまずく5つの落とし穴

いずれも、ご相談の現場でよく見かけるケースを一般化したものです。

落とし穴1:要件に「当てはまる」と思い込む

建設業許可では、経営業務の管理体制や、営業所に置く技術者の資格・実務経験が問われます。
AIに経歴を伝えると「要件を満たしています」と答えることがありますが、審査で求められるのは「経験があること」ではなく「書類で証明できること」です。
証明できなければ、要件を満たしていないのと同じ扱いになります。

落とし穴2:古い制度・用語のまま書く

建設業法は令和6年12月13日施行の改正で、従来「専任技術者」と呼ばれていた営業所の技術者が「営業所技術者」となり、一定の条件で工事現場との兼務も可能になりました。
AIの回答は、改正前の情報に基づいていることがあります。
用語が古いだけでなく、制度の内容が古いままでずれている可能性に注意してください。

落とし穴3:申請先ごとの手引き・運用の違いを見落とす

同じ建設業許可や宅建業免許でも、申請先(都道府県など)ごとに手引きがあり、求められる確認資料や書き方に違いがあります。
AIは一般論で答えるため、自社の申請先の運用に合っているとは限りません。

落とし穴4:申請書より「証明資料集め」で止まる

実務で時間がかかるのは、申請書の作成より、経歴や実績を裏付ける資料集めです。
過去の契約書や請求書、在籍を示す資料などが見つからず、申請の段階で行き詰まるケースは少なくありません。
AIは、資料を用意してはくれません。

落とし穴5:取得後の届出を忘れる

許可・免許は、取れば終わりではありません。
建設業許可の場合、法律で次のような届出期限が定められています(建設業法第11条)。

届出期限
商号・営業所・役員等の変更変更から30日以内
毎事業年度の決算報告(いわゆる決算変更届)事業年度経過後4か月以内
営業所技術者の交代2週間以内

宅建業免許にも、変更の届出や更新の手続があります。
期限を過ぎたり、決算報告を出していなかったりすると、更新や業種追加の手続で困ることになります。
申請書づくりだけでなく、取得後の管理までを見据えることが大切です。

AIの答えを確かめる3つの方法

AIを使うなら、「答えを確かめる」ことを行ってください。

  1. 申請先の最新の手引きと照合する:
    手引きの表紙で、作成日や改訂日を必ず確認します。
    AIの回答と手引きが食い違ったら、手引きが優先です。
  2. 法改正・運用変更の有無を公式サイトで確認する:
    国土交通省や都道府県の公式サイトで、直近の改正情報をチェックします。
    前述の令和6年12月の建設業法改正のように、用語や制度が変わっていることがあります。
  3. 迷ったら、申請前に確認する:
    申請先の窓口の事前相談や、行政書士への確認を使いましょう。
    申請後に補正を重ねるより、結果的に早く進みます。

AIへの質問にも一工夫できます。
「根拠となる法令や手引きの名前を示して」と頼み、示された出典を自分で開いて確かめてください。
出典を示せない回答や、確認すると存在しない出典が示された回答は、そのまま使ってはいけません。

「誰に作ってもらうか」も要注意

AIで自社の書類を自社で作ることは、何の問題もありません。
注意が必要なのは、書類の作成を他人に任せる場合です。

法律が定めるルール

建設業許可や宅建業免許の申請書、毎年の決算報告などの「官公署に提出する書類」を、他人の依頼を受けて報酬を得て作成することは、行政書士の業務です(行政書士法第1条の3)。

そして、行政書士または行政書士法人でない者は、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、この業務を業として行うことができません(同法第19条。他の法律に別段の定めがある場合などの例外を除く)。

「いかなる名目によるかを問わず」の部分は、2026年1月1日施行の改正で加わりました。
違反した者には、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が定められています(同法第21条の2)。

あらゆる行政庁でこの対策が進められてきており、特に電子申請では行政書士以外への委任ができなくなってきています。
紙ベースでの申請は今後なくなって行く方向ですので、今のうちに適法な支援先を選択するようにしてください。

実務でよく見かけるケース

当事務所にご相談いただく中で、次のようなケースに少なからず出会います。

  • 建設業許可や宅建業免許の申請、毎年の決算報告を、日頃の顧問先である別分野の専門家に「決算のついで」として任せている
  • 書類作成の費用が、顧問料やサービス料の中に含まれていて、誰がどの書類を作っているのか経営者が把握していない
  • 別分野の国家資格を持つ専門家だから、許認可の書類も作れるものと思い込んでいる

他の国家資格を持っていても、行政書士として登録していなければ、報酬を得て許認可の書類を作成することはできません。
顧問料やサービス料といった名目でも同じです。
なお、一部の国家資格者は行政書士となる資格を持っており(同法第2条)、行政書士として登録していれば適法に業務を行えます。
確かめるべきは、肩書きではなく「行政書士の登録があるか」です。

経営者が気をつけたい理由

建設業許可での決算変更(更新)に添付する財務諸表は、税務申告用の決算書をそのまま使うのではなく、建設業法で定められた様式に組み替える必要があります。
書類の作成者と責任の所在があいまいなままだと、誤りがあったときに誰も責任を持って対応できません。
経営事項審査、許可の更新や業種追加のタイミングで、過去の届出の不備が見つかることもあります。

当事務所からの提言

決算や税務、労働関係、登記はその分野の専門家に、許認可の書類は行政書士に。
それぞれの専門家が本来の業務の範囲で連携することが、経営者にとって最も安全で確実な体制です。
いま許認可の書類を誰が作っているのか分からない場合は、一度確認してみてください。

依頼先が行政書士かどうかは、行政書士証票の提示を求めたり、契約書や名刺に登録番号の記載があるかを見たりして確かめられます。

AIを使った書類作成サービスについても、考え方は同じです。
道具がAIであっても、他人の依頼を受けて報酬を得て作成を引き受ける人や会社が行政書士でなければ、この規定との関係が問題になり得ます。
詳しくは、
「許認可申請での「無資格代行」に要注意」
「行政書士に依頼できる業務・できない業務を完全解説|中小企業向け」
もご覧ください。

自分で申請してよいケース、専門家に確認すべきケース

すべてを専門家に任せる必要はありません。
自社の状況に当てはめて判断してください。

状況自社で進めやすい専門家への確認をおすすめ
申請の経験同じ手続を過去に自社で行っている初めての申請、久しぶりの申請
証明資料経歴・実績を裏付ける資料が手元にそろっている資料が一部見つからない、何で証明するか分からない
会社の変化役員・営業所・技術者に変更がない役員交代、営業所の移転、技術者の退職があった
スケジュール期限まで十分な余裕がある更新期限や受注の予定が迫っている
過去の経緯届出をすべて期限内に出している決算報告や変更届の出し忘れがあるかもしれない

右側に一つでも当てはまるなら、申請書を作る前に一度確認することをおすすめします。

AIで作った申請書を出す前のチェックリスト

  • 申請先の最新の手引きを入手し、作成日・改訂日を確認した
  • AIの回答と手引きの内容を、一項目ずつ照合した
  • 用語や制度が現行法に合っている(例:営業所技術者)
  • 要件ごとに、それを証明する資料を特定し、手元にそろえた
  • 記載内容が、登記事項や決算書などの事実と一致している
  • 役員・営業所・技術者の変更について、必要な届出を済ませている
  • 過去の決算報告を、毎年期限内に提出している
  • 許可・免許の有効期限と、更新手続の時期を把握している
  • 書類作成を他人に任せる場合、相手の行政書士登録を確認した
  • 迷う点を、申請前に窓口または専門家に確認した

よくある質問

Q1. AIで許認可の申請書を作っても違法になりませんか?

A. 自社の申請書を自社で作るのであれば、AIを使っても違法ではありません。
ただし他人の依頼を受けて報酬を得て作成できるのは、行政書士または行政書士法人に限られます(行政書士法第19条)。

Q2. 建設業許可は自分で申請できますか?

A. 自社で申請することはできます。
ただし経営業務の管理体制や営業所技術者の要件を、書類で証明できるかが最大の壁です。
証明資料がそろわない場合は、申請前に専門家へ確認することをおすすめします。

Q3. AIの回答が古いかどうかは、どう見分けますか?

A. 申請先の最新の手引きと照合するのが確実です。
建設業法では令和6年12月13日施行の改正で「営業所技術者」という用語に変わっており、古い用語のままの回答は改正前の情報に基づいている可能性があります。

Q4. 顧問の専門家に許認可の書類もお願いしていますが、問題ありませんか?

A. その専門家が行政書士として登録しているかを確認してください。
他の国家資格を持っていても、行政書士の登録がなければ、顧問料などの名目でも報酬を得て許認可の書類を作成することはできません。

Q5. 建設業許可を取った後に必要な手続はありますか?

A. あります。毎事業年度経過後4か月以内の決算報告、変更から30日以内の変更届などが建設業法で定められています。
期限を守らないと、更新や業種追加の手続に影響します。

まとめ:AIは下書きまで。要件の判断と「誰が作るか」は人が確かめる

AIは許認可の申請準備を効率化してくれる便利な道具です。
しかし、自社が要件に当てはまるか、証明資料がそろうか、制度が最新かを判断するのは、最終的には人です。
そして書類の作成を他人に任せるなら、その相手が行政書士かどうかを確かめることが欠かせません。

今やるべきこと

  1. 申請先の最新の手引きを入手し、AIの回答と照合する
  2. 要件ごとの証明資料を棚卸しする
  3. 取得済みの許可・免許について、決算報告や変更届の提出状況と更新時期を確認する
  4. 許認可の書類を誰が作っているかを確認する

当事務所は、建設業許可・宅建業免許をはじめとする許認可の申請と、取得後の届出管理をお手伝いしています。
たとえば次のようなご相談をお受けしています。

  • 要件を満たしているか、何で証明するかの事前確認
  • ご自身やAIで作成した申請書類の内容確認【内容が不適切な場合はお断りする場合もあります】
  • 決算報告・変更届・更新などの期限管理

決算や税務など他の専門分野にかかわる内容は、提携の専門家と連携して対応します。
許可・免許の取得をお約束するものではありません。
最終的な要件や手続は、申請先の最新の手引きや窓口の案内で必ずご確認ください。