建設業許可や宅建業免許の取得を検討する際、「知り合いの業者に頼めば安く済む」「協会のサポートを使えば手間がかからない」といった話を耳にすることがあります。
しかし、その代行が行政書士資格を持たない者によるものであれば、依頼した側にも法的リスクが及ぶ可能性があります。
この構図は建設業・宅建業に限らず、外国人材の受け入れに関わる入管手続きや、古物商許可などのビジネス系許認可でも共通して起こり得るものです。
本記事では、具体的な摘発件数や事例統計ではなく、行政書士法および2026年施行の改正内容、各許認可の制度上の仕組みをもとに、無資格代行がどのような構造で起こりやすいのか、そしてリスクを避けるために何を確認すべきかを整理します。
許認可申請における「無資格者による代行」とは何か
行政書士法では、官公署に提出する書類の作成を「業として」行うこと、すなわち反復継続して報酬を得て行うことは、行政書士(または弁護士等の一部有資格者)に限定されています。
建設業許可・宅建業免許・古物商許可などの書類も、この「官公署に提出する書類」に該当します。

2026年1月施行の改正では、行政書士法第19条第1項に「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が加えられました。
これにより、「コンサル料」「事務手数料」「会費」など、どのような名目であっても、実質的に書類作成を有償で代行する行為は、行政書士法違反に該当し得ることが明確化されています。
なお、申請者本人(自社の担当者)が自社の許可申請書類を作成すること自体は、行政書士法の対象外であり違法ではありません。
問題となるのは、外部の第三者が報酬を得て代わりに作成するケースです。
電子申請化が進むことで「代理人」の適格性がより明確になっている
近年、建設業許可・経営事項審査(JCIP)や宅建業免許(国土交通大臣許可分・eMLIT)など、許認可手続きの電子申請化が急速に進んでいます。
この電子化は、無資格代行の問題により厳格な線引きをもたらす側面があります。
建設業許可・経営事項審査の電子申請システム「JCIP」を例にとると、申請者(委任者)がgBizIDプライムアカウントを取得したうえで、代理人となる行政書士等のgBizIDプライムアカウントに対して「委任申請」を行い、システム上で委任関係を成立させる必要があります。
この委任申請の手順では、委任先である代理人の行政書士証票データの提出を求める運用も見られ、電子申請上の「委任」という行為自体が、資格の有無を前提とした仕組みになっているという点が特徴です。
宅建業免許についても、国土交通大臣への免許申請等でオンライン申請システム「eMLIT」の利用が始まっており、従来通り行政書士による代理申請が可能とされています。
つまり、電子申請が広がるほど「誰が代理人としてシステム上の委任を受けているか」が記録・可視化されやすくなり、無資格のまま実質的に書類作成・提出代行を行うことのリスクが、紙の申請時代よりも顕在化しやすくなっていると考えられます。
依頼先を検討する際は、電子申請における委任の枠組みでも行政書士が代理人として対応できる体制かどうかを、確認ポイントの一つに加えるとよいでしょう。
なぜ無資格の代行が起きやすいのか
許認可申請の書類作成は、専門的な知識と手間を要する一方で、次のような事情から、無資格者による代行が入り込みやすい構造があるとされています。
- 手続きが複雑で、経営者自身が理解するのに時間がかかる
- 「格安代行」を謳う事業者との価格競争が起きやすい
- 業界団体・保険代理店・コンサル会社・人材紹介会社などが「ついでのサービス」として許認可サポートを提供しているケースがある
- (行政書士登録していない)士業も「ついでのサービス」でサポートしている場合も散見されます
- 依頼者側が「誰が実際に書類を作成しているか」を意識しにくい
こうした構造は、行政書士法改正で問題視された補助金申請代行のケースと共通しています。
許認可の分野でも同様の構図が生じ得るという点は、経営者としてあらかじめ認識しておく価値があります。
建設業許可申請で見られやすいパターン
建設業許可の取得・更新・業種追加には、経営業務の管理責任者や専任技術者の要件確認など、専門的な判断を要する場面が多くあります。
この手続きの複雑さから、建設業許可の取得サポートを行政書士以外の事業者(業界団体・保険代理店・コンサル会社、税理士等)が提供しているケースが見られます。
助言や書類の準備補助にとどまる範囲であれば問題になりにくいと考えられますが、申請書そのものの作成や、行政庁とのやり取りの代行にまで踏み込む場合は、行政書士資格の有無が問われる可能性があります。
また建設業許可では、「建設業用の決算書」を作成、提出することが良くありますが、通常の決算書(税務署に提出する決算書)とは異なります。
この違いを理解していない者が作成すると、違法性(建設事業を行っていない)があると判断されるリスクがあります。
前述のとおり、JCIPでの電子申請では委任関係がシステム上に記録されるため、契約前に「誰が実際に書類を作成し、電子申請の委任を受けるのか」を確認することが重要です。
宅建業免許申請で見られやすいパターン
宅地建物取引業(宅建業)の免許申請でも、開業準備を一括してサポートするパッケージサービスの中に、書類作成代行が含まれているケースが見られます。
不動産業界特有の商慣習として、フランチャイズ本部や関連会社が開業支援の一環として許認可サポートを提供する場合もありますが、この場合も、書類作成そのものを有償で代行しているかどうかが法的な分かれ目になります。
建設業・宅建業以外にも広がる無資格代行のリスク
無資格代行の問題は、建設業・宅建業に限った話ではありません。
特に次の2分野は、業務の性質上、無資格者が関与しやすい構造があるとされています。
入管手続き(在留資格の申請取次)
外国人材の在留資格に関する手続きには「申請取次制度」という仕組みがあり、行政書士・弁護士のほか、受入機関(企業)の職員や登録支援機関の職員など、一定の要件を満たす者が出入国在留管理局長の承認を受けて「申請等取次者」となることで、本人に代わって書類を提出できます。
在留資格の書類作成・申請取次を、こうした承認を受けていない者が有償で行うことは、行政書士法・弁護士法上の問題となり得ます。
外国人材の採用が拡大する中、就労ビザの手続きを人材紹介会社や仲介業者に一括して依頼するケースも増えていますが、その事業者(または担当者)が申請取次者としての要件を満たしているか、あるいは行政書士・登録支援機関内の有資格者が関与しているかを確認することが重要です。
古物商許可申請
古物商許可の取得サポートは、行政書士事務所によるサービスとして広く提供されている一方、格安・スピード対応を売りにする事業者の中には、実態が不明確なまま書類作成まで踏み込んでいるケースもあり得ます。
古物商許可は警察署が窓口となる手続きであり、書類の記載内容に不備があると許可取得の遅れにつながるため、誰が実際に申請書を作成しているのかを確認する意識が重要です。
最近は、提出先の警察書が確認することが多いです。
無資格代行のリスク
無資格者による書類作成代行に依頼した場合、依頼者側には主に次のようなリスクが考えられます。
- 申請書類の不備・却下:
行政書士でない者が作成した書類は、法令要件への理解が不十分なまま提出され、不備や却下につながるおそれがあります - 行政書士法違反への加担リスク:
依頼者が違法性を認識しながら発注した場合、意図せず違法行為に関与したとみなされる可能性があります - 両罰規定による法人側の責任:
2026年の改正では、業務制限違反について行政書士法人でない法人にも罰金刑が科され得る両罰規定が整備されました。
これは主に代行業者側に適用される規定ですが、業界全体としてコンプライアンス意識が高まる背景となっています - 契約上のトラブル時の救済手段の乏しさ:
無資格の事業者には行政書士のような懲戒制度が及ばないため、トラブル時の対応が不透明になりやすい点も留意が必要です
正しい依頼先の見分け方
許認可申請を依頼する際は、次の点を確認することをおすすめします。
- 担当者が行政書士登録をしているか(行政書士証票の提示や登録番号の確認)
- 契約書に業務範囲(助言のみか、書類作成・提出代行まで含むか)が明記されているか
- 「格安」「スピード対応」を強調する事業者ほど、実際の作成主体が誰かを具体的に確認する
- 電子申請を利用する場合、委任の相手として行政書士が正しく登録・対応できる体制かを確認する
- 入管手続きであれば、申請等取次者としての承認を受けているかを確認する
- 建設業・宅建業・古物商・入管など、複数の許認可を横断して相談できる体制かを確認する
- 補助金申請など関連する行政手続きも含め、継続的に相談できる顧問契約の選択肢があるか
まとめ
許認可申請における無資格代行は、具体的な摘発事例の統計こそ確認できていないものの、行政書士法改正が問題視した構造(書類作成代行)と同じ構図が、建設業・宅建業だけでなく入管手続きや古物商許可の現場でも起こっています。
加えて、建設業許可(JCIP)や宅建業免許(eMLIT)の電子申請化が進むことで、代理人としての委任関係がシステム上でより明確に管理されるようになりつつあります。
「誰が実際に書類を作成し、申請の委任を受けているか」を契約前に確認することが、経営者にとって最もシンプルかつ有効なリスク回避策です。
建設業許可・宅建業免許・入管手続き・古物商許可などの取得・更新をご検討の際は、資格の有無を含めた依頼先の確認から始めることをおすすめします。
