日本銀行は2026年10月30日、政策金利を1.25%程度に据え置きました。
「ひと息ついた」と感じた経営者も多いかもしれません。
しかし、日銀は利上げを続ける方針を崩しておらず、民間の予想も12月から来年にかけての追加利上げに傾いています。
1月の記事では、金利上昇局面で費用側の「固定費」を見直す方法をお伝えしました。
この記事はその続編です。今回は、借入・調達・銀行対応の側で、中小企業が12月会合の前に整えておくことを整理します。
ご参考:金利上昇局面の経営は「固定費」がキモ|真っ先に見直す5項目
この記事の要点
- 政策金利は2025年12月の0.75%から、2026年10月に1.25%まで上がりました。据え置きは「利上げの終わり」ではありません。
- 変動金利の借入は、短期プライムレートの改定を経て、契約ごとの見直し時期に上がります。
まず借入を一覧にして、いつ・いくら増えるかを数字で把握します。 - 対策は、借入の棚卸し、調達の見直し、銀行との対話の3つです。
収益側の対策と合わせて進めます。
日銀は何を決めたか|1.25%据え置きと、次の利上げの見方
日銀は2026年10月29・30日の会合で、政策金利を1.25%程度に据え置きました。
採決は賛成8、反対1です。
反対したのは高田創委員で、1.50%への利上げを提案しました。
同時に公表された展望レポートでは、基調的な物価上昇率が2%の目標とおおむね整合的な水準になったと認められました。
報道では、利上げは継続する方針とされています。
政策金利の推移
| 時期 | 政策金利 | 備考 |
|---|---|---|
| 2025年12月 | 0.75% | 約30年ぶりの水準 |
| 2026年6月16日 | 1.00% | 31年ぶりの水準 |
| 2026年9月18日 | 1.25% | 前回から3か月。総裁就任後で最短の間隔 |
| 2026年10月30日 | 1.25%(据え置き) | 賛成8・反対1 |
次の利上げはいつか|民間の予想は割れている
次回の会合は12月17〜18日の予定と報じられています。
民間の予想は、12月に1.50%とする見方、2027年1月とする見方などに分かれています。
| 見方 | 内容 |
|---|---|
| 第一生命経済研究所 | 12月会合で1.50%に引き上げ、その後も3か月程度の間隔で追加利上げ。2027年6月に2.00% |
| 三井住友DSアセットマネジメント(9月時点) | 2027年1月と6月に0.25%ずつ引き上げ、到達点は1.75% |
時期や到達点の見方は、機関によって違います。
ただ、どの見方も利上げの方向は変わっていません。
経営者としては、「いつか」を当てるより、「1.50%、1.75%、2.00%になったら自社はどうなるか」を試算しておくほうが実務的です。
※ 予想は各機関の見解であり、確定した情報ではありません。
またこの記事では金利予測ではなく、金利上昇時の対応について記載しています。
利上げは、いつ・どう借入金利に届くのか
変動金利の事業融資は、政策金利の変更から少し遅れて、契約ごとの見直し時期に金利が上がります。
金利が届くまでの流れ
- 日銀が政策金利を引き上げる
- 銀行が短期プライムレート(短プラ。銀行が信用力の高い企業に短期で貸す際の基準金利)を改定する
- 短プラに連動する変動金利の借入は、契約で決まった見直し時期から、新しい金利が適用される
中小企業の借入金利は、短プラに、信用力や保全の状況に応じた上乗せ幅を足して決まるのが一般的です。
実際の動きを見ると、三菱UFJ銀行の短プラは、2026年2月2日に1.875%から2.125%へ、8月3日に2.125%から2.375%へと、それぞれ0.25%引き上げられています。
6月16日の利上げの発表から、改定日まで約1か月半あいています。
9月の利上げに伴う短プラの改定は、今回の調査では確認できていません。
利上げ幅と残高で、年間の利息はこう変わる
いま1.25%の政策金利が1.50%、1.75%、2.00%と上がり、借入金利が同じ幅で上がったと仮定した試算です。
| 借入残高(変動金利) | +0.25%(政策金利1.50%) | +0.50%(同1.75%) | +0.75%(同2.00%) |
|---|---|---|---|
| 3,000万円 | 年7.5万円増 | 年15万円増 | 年22.5万円増 |
| 5,000万円 | 年12.5万円増 | 年25万円増 | 年37.5万円増 |
| 1億円 | 年25万円増 | 年50万円増 | 年75万円増 |
※ 試算の前提:全額が短プラ連動の変動金利で、残高は変わらず、借入金利が政策金利と同じ幅で上がる場合。
固定金利の借入や、すでに金利が見直された分は含みません。
実際の増加額は契約で異なります。
数字だけを見ると、小さく感じるかもしれません。
しかし、利息は毎年かかります。
賃上げ、仕入れ値、人手不足が重なる中で、利益から出ていくお金がじわじわ増える点が問題です。
実際、民間の調査機関によれば、2025年度は中小企業で、金利上昇や人手不足を背景に、支払利息と人件費が目立って増えました。
対策1|借入を1枚の表にする「棚卸し」
最初にやることは、すべての借入を1枚の一覧表にまとめることです。
いつ、どの借入の金利が、どれだけ上がるのかが、見えるようになります。
一覧表に入れる項目
| 項目 | なぜ必要か |
|---|---|
| 金融機関名・借入の種類(プロパー、信用保証付き、制度融資、日本政策金融公庫など) | 種類によって金利の決まり方が違う |
| 借入残高・毎月の返済額・最終返済日 | 資金繰り表の元データになる |
| 金利の種類(固定/変動)と、連動する基準(短プラなど) | 利上げの影響を受けるかを判断する |
| 現在の金利と、次の見直し時期 | 上がるタイミングを見える化する |
| 保証の状況(信用保証協会の保証、代表者の保証) | 借換えや交渉の選択肢に関わる |
一覧にして初めて分かること
実務では、借入が複数の金融機関や複数本に分かれていて、見直し時期がバラバラな会社が少なくありません。
返済予定表が銀行ごとの書類のままで、社内に1枚にまとまっていないことも多いです。
一覧にすると、次のような点に気づけます。
- 変動金利の借入の合計が、全体の何割か
- 次の3〜6か月で金利が見直される借入はどれか
- 返済のピークが、どの月に重なるか
自社の「体力」を示す2つの数字
一覧表ができたら、次の2つの数字を計算します。
| 指標 | 計算 | 見方 |
|---|---|---|
| 利息の負担 | 営業利益 ÷ 年間の支払利息 | 倍率が低いほど、利上げの影響を受けやすい |
| 債務償還年数 | (有利子負債 − 正常運転資金)÷ キャッシュフロー | 銀行が重視する指標。10年以内が一つの目安 |
どちらも、銀行が融資の判断で見る数字です。
自社で先に把握しておくと、銀行との話し合いの準備にもなります。
債務償還年数の考え方は、当事務所の「経営改善計画(405事業)とは」でも説明しています。
利上げシナリオを3本作る
最後に、利上げの前提を3本置いて、年間の利息と返済額を試算します。
- 現状維持(政策金利1.25%のまま)
- 1.50%まで上昇
- 2.00%まで上昇
「2.00%になっても資金繰りが回るか」を見ておくと、判断の基準ができます。
対策2|調達を見直す|固定・変動、制度融資、補助金のつなぎ資金
棚卸しで全体が見えたら、次は「どの借入を、どう持つか」を検討します。
固定金利に替えれば安全、とは限りません。
借入の持ち方の選択肢
| 選択肢 | どの場面か | 注意点 |
|---|---|---|
| 変動金利のまま維持 | 返済が近い短期の運転資金。利上げの影響を資金繰りで吸収できる | 次の見直し時期と、上昇幅の試算が前提 |
| 固定金利へ借換え | 返済期間が長い設備資金。金利が上がると資金繰りが厳しくなる | 利上げの見込みを織り込み、当初の金利が高めに設定される場合がある。手数料や保証料も確認 |
| 制度融資・信用保証付き融資 | 新規の借入や借換え。保証料の補助を使える場合がある | 審査と要件がある。保証料の負担も含めて比べる |
| 日本政策金融公庫の融資 | 固定金利が中心のため、金利の先行きを読みにくい時期に検討しやすい | 審査と使途の確認が必要。契約内容は個別に確認 |
| 返済期間の延長(条件変更) | 毎月の返済を軽くして、資金繰りを立て直したい | 総利息は増える。銀行に計画を示して交渉する |
東京都の会社が確認したい制度融資の動き
東京都の中小企業制度融資では、固定金利が適用される融資メニューの上限金利が、2026年10月1日から一律0.25%引き上げられました。
金融機関所定の金利が適用されるメニューは、従来どおり金融機関ごとの金利です。
一方で、都は中東情勢の影響を受ける中小企業向けに、信用保証料を補助するメニューを用意しています。
売上の減少などの要件を満たす場合は、補助の割合が大きくなります。
メニューによって異なりますが、受付期間が令和9年3月31日までとされているものがあります。
最新の要件と期間は、東京都の案内で確認してください。
また、区市町村が保証料の補助や利子補給を上乗せしている場合があります。
都の補助との併用ができる区もあります。
事業所のある区の制度も、あわせて確認してください。
補助金を使うときの「つなぎ資金」の金利
補助金は、多くの場合、事業を終えてから精算して支払われる後払いです。
設備投資を先にして、補助金が入るまでの間は、自己資金か借入で立て替えます。
補助金の相談では、補助金の額だけを見て、立て替え期間の資金繰りや金利を計画に入れていないケースが少なくありません。
金利が上がる時期は、つなぎ資金の利息も増えます。
次の3点を、事業計画に組み込んでおきましょう。
- 補助金が入るまでの期間(実績報告から入金までの目安)
- その間の借入額と、金利の上昇を見込んだ利息
- 不採択になった場合に、投資を続けるか止めるかの判断基準
交付決定の前に発注した費用は、補助の対象外になるのが一般的です。
「採択されたら借りる」のではなく、「採択された場合・されなかった場合」の両方を、先に決めておくことが大切です。
対策3|銀行との対話は「数字と計画」を持って早めに
金利の相談は、返済が苦しくなってからではなく、見直し時期の前に始めるのが基本です。
銀行は、資料と計画がそろっている会社ほど、話を進めやすくなります。
銀行に持っていく資料
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 直近の試算表 | 月次の業績が分かるもの。利益の推移を示す |
| 借入一覧表 | 前の章で作った表。金利と見直し時期を入れる |
| 資金繰り表 | 今後12か月の入出金。利上げ後の利息を反映する |
| 利上げシナリオの試算 | 1.50%・2.00%になった場合の利息と返済額 |
| 収益改善の計画 | 価格転嫁、固定費の見直し、賃上げの見込みを数字にしたもの |
銀行が見ている3つのポイント
金融機関は、決算書で主に次の点を見ます。
- 債務償還年数:借入を何年で返せるか
- 営業キャッシュフロー:本業で稼ぐ力があるか
- 自己資本比率:財務の安全性
「金利が上がって苦しい」という説明だけでは、話は進みません。
「利上げ後も、この計画で返済できる」と数字で示せることが、信頼につながります。
返済の負担が重いときの公的な制度
借入の返済負担が重く、金融機関との関係を立て直したい場合は、国の「経営改善計画策定支援事業(405事業)」が選択肢になります。
認定支援機関の支援を受けて経営改善計画を作る費用の一部を、国が補助する制度です。
当事務所の記事では、費用の3分の2(上限300万円)の補助と、計画策定後3年間のモニタリングがあることを解説しています。
この制度は、次のような要件を満たす場合に使えます。
- 借入金の返済負担などで、財務上の問題を抱えている
- 自社だけでは、経営改善計画を作るのが難しい
- 認定支援機関の支援で計画を作れば、金融機関からの支援が見込める
まだそこまで悪化していない段階では、より軽い「早期経営改善計画策定支援事業」で、早めに手を打つ方法もあります。
詳しくは「経営改善計画(405事業)とは」をご覧ください。
※いずれにしても、対応が遅れると金融機関も対応が取れない場合がありますので、早めの対応がもの凄く重要です。
返済条件の相談で、気をつけたいこと
返済条件の変更を相談すること自体が、直ちに不利になるわけではありません。
ただし、条件変更の内容によっては、金融機関が会社の状況を見直す判断に影響する場合があります。
だからこそ、計画と資金繰り表を用意して、早めに、具体的に相談することが重要です。
融資の可否や金利を決めるのは金融機関です。
当事務所は、融資の可否をお約束することはできません。
その代わり、認定支援機関として、銀行との対話に使える資料と計画づくりをお手伝いします。
対策4|収益で吸収する|避けたい失敗と、今日からのチェックリスト
借入側の対策と並行して、増える利息を利益で受け止める準備も必要です。
収益側の対策は、当事務所の過去の記事で詳しく解説しています。
| 打ち手 | 狙い | 詳しい記事 |
|---|---|---|
| 固定費の見直し | 売上に関係なく、継続的に利益を増やす | 金利上昇局面の経営は「固定費」がキモ|真っ先に見直す5項目 |
| 価格転嫁 | 原価・人件費・利息の増加を、価格に反映する | 価格転嫁を断られないために|価格交渉前に準備すべき原価資料と伝え方 |
| 賃上げと利益の両立 | 賃上げしても、利益を残す仕組みを作る | 賃上げしても利益を残す中小企業の経営改善 |
利上げ局面で避けたい4つの失敗
- 手元資金を減らしすぎる。
利息を減らそうと、手元の資金で返済を急ぐと、運転資金が不足します。
手元流動性の確保が最優先です。 - 運転資金まで長期で固定してしまう。
余った資金の運用は検討してよい一方、日々の支払いに使う資金まで動かせなくすると、資金繰りが詰まりそこで終わってしまいます。 - 返済が厳しくなっても、銀行に黙っている。
延滞してから相談するのと、事前に計画を持って相談するのとでは、話の進み方が大きく変わります。
延滞はかなり大きなマイナスポイントになることを肝に銘じてください。 - 利上げの報道だけで、慌てて借換え・投資を決める。
借換えには、手数料や保証料がかかる場合があります。
条件を比べてから決めましょう。
借入一覧表を作るときの実務のコツ
決算書に添付されている、借入金と支払利息の内訳書を元にすると、一覧表を早く作れます。
ただし、決算時点の情報なので、最新の残高、金利、見直し時期は、各金融機関の返済予定表で更新してください。
年に1回ではなく、四半期ごとに見直すと、利上げの影響をつかみやすくなります。
今日からのチェックリスト
すぐにでも
- すべての借入を、1枚の一覧表にまとめた
- 変動金利の借入が、全体の何割かを把握した
- 次の見直し時期が、3〜6か月以内に来る借入を洗い出した
次の利上げ(12月会合?)まで
- 政策金利が1.50%・2.00%になった場合の、年間の利息と返済額を試算した
- 今後12か月の資金繰り表を作り、利上げ後の利息を反映した
- 固定への借換えや条件変更を、どの借入で検討するかを整理した
銀行との対話に向けて
- 試算表、借入一覧、資金繰り表を、1つの資料にまとめた
- 価格転嫁や固定費の見直しなど、収益改善の計画を数字にした
- 補助金を使う予定があれば、つなぎ資金の期間と利息も計画に入れた
よくある質問(FAQ)
Q1. 日銀が利上げすると、中小企業の借入金利はいつ上がりますか?
短プラに連動する変動金利の借入は、銀行が短プラを改定したあと、契約ごとの見直し時期に上がります。
2026年6月の利上げでは、三菱UFJ銀行の短プラ改定は約1か月半後の8月3日でした。
実際の見直し時期は契約で異なるため、返済予定表や契約書で確認してください。
Q2. 固定金利に借り換えたほうがよいですか?
一律に有利とは言えません。
固定金利は、利上げの見込みを織り込んで、当初の金利が高めになる場合があります。
返済期間、借換えの手数料や保証料、資金繰りの余裕を比べて、借入ごとに判断します。
Q3. 日本政策金融公庫から借りている場合も、金利は上がりますか?
公庫の融資は基本的に固定金利のため、返済中の金利は契約後に変わりません。
ただし、新しく借りる場合は、そのときの金利水準が適用されます。
契約内容は個別に確認してください。
Q4. 返済条件の相談をすると、銀行からの評価は下がりますか?
相談したこと自体が、直ちに評価を下げるわけではありません。
ただ、条件変更の内容によっては、金融機関の判断に影響する場合があります。
試算表・借入一覧・資金繰り表を用意して、早めに具体的に相談することが重要です。
まとめ|据え置きの今が、準備の時間
日銀の据え置きは、利上げの終わりではなく、次に備える時間です。
政策金利が1.50%、2.00%になっても資金繰りが回るかを、先に数字で確かめ、検証しておきましょう。
今週やること
- すべての借入を、金利の種類と見直し時期つきの一覧表にする
- 政策金利が1.50%・2.00%になった場合の、年間の利息を試算する
- 試算表・借入一覧・資金繰り表をそろえ、銀行に相談する日程を決める
当事務所に相談するメリット
当事務所は認定経営革新等支援機関として、財務の面から中小企業の経営を支援しています。
次のようなご相談に対応します。
- 借入一覧表と、利上げシナリオ別の試算のたたき台づくり
- 銀行との対話に使う、資金繰り表や経営改善計画の作成支援
- 補助金を使う際の、つなぎ資金や金利を含めた事業計画づくり
融資の可否や金利は、金融機関が決めます。
当事務所は、融資の結果をお約束することはできません。
決算や税務の判断は、提携の税理士など、専門家と連携して進めます。
ご参考:財務伴走支援のご案内:https://iij-office.com/finance/
