「設立のときの定款は、ネットのひな形を使った」「履歴事項全部証明書は融資や許認可で取ったことがあるが、公告の欄までは読んでいない」。
相談の現場でも、自社の公告方法を把握していない方が少なくありません。
株式会社には決算公告の義務があり、どの方法で行うかは定款と登記に関わります。
この記事では、履歴事項全部証明書の「公告をする方法」欄の見方、定款を理解せずに作ることの落とし穴、そして貸借対照表は隠すものではないということを整理します。
なお、この記事は、毎年の公告を勧めるものではありません。
決算公告をしていない中小企業が多いのが実情ですが、法律上の義務であることを知らないまま経営することと、知ったうえで判断することは別です。
その違いに気づいていただくための記事です。
この記事の要点
- 履歴事項全部証明書の「公告をする方法」欄を見れば、自社がどの方法で公告する会社かがわかります。
株式会社は、決算公告をその方法で行う義務があります。 - 定款に公告方法を定めないと、官報で公告する会社とみなされます。
ネットのひな形をそのまま使う場合、専門家に作成してもらう前に、その内容を調べ検討してください。 - 貸借対照表は、株式会社にとって公告することが前提の書類です。
隠すものではなく、金融機関や取引先との対話、補助金申請での出発点になります。
履歴事項全部証明書の「公告をする方法」とは
履歴事項全部証明書は、法務局に登記された会社の情報を証明する書類です。
商号、本店、事業目的、役員、資本金などの並びに、「公告をする方法」という欄があります。
ここに、その会社が公告をどの方法で行うかが記載されています。
公告とは、会社の情報を広く一般に知らせることです。株式会社の決算公告も、この方法で行います。
用語メモ|官報とは
官報は、国が発行する機関紙で、法律や政令の公布のほか、会社の公告など法令で定められた事項が掲載されます。
会社が公告を掲載するときは、官報販売所に申し込みます。
決算公告の場合、申込みから掲載まで1〜2週間程度(10営業日ほど)かかります。
欄の表示と、決算公告の出し先
| 欄の表示(例) | 意味 | 決算公告の出し先 |
|---|---|---|
| 官報に掲載してする | 官報で公告する会社 | 官報(貸借対照表の要旨) |
| 日刊新聞紙(新聞名)に掲載してする | 日刊新聞紙で公告する会社 | その新聞(貸借対照表の要旨) |
| 電子公告とする。としてURLが記載されている | 電子公告で公告する会社 | 記載されたURLのページ(貸借対照表の全文) |
表示の文言は会社ごとに異なります。
電子公告の場合は、公告を掲載するウェブページのURLも登記されることが、法務局の登記申請書の記載例で確認できます。
この記載例では、「電子公告ができない事故その他やむを得ない事由が生じた場合は官報に掲載してする」という予備の定めも登記する形になっています。
確認するポイント
- 欄が「官報」なら、直近の決算後に官報へ公告を掲載した記録(控え・申込の履歴)があるか。
- 欄が電子公告なら、記載されたURLのページに貸借対照表が掲載されているか。
- どちらも見当たらない場合は、決算公告がされていない可能性があります。
- 法的には公告は毎年行わなければなりません。
現実的には中小企業の多く(ほとんど)は公告を知らず、行っていないと思われます。
この機会に、公告について理解していただければと思います。
決算公告は株式会社の義務|何を、いつ、どこまで
会社法440条により、株式会社は定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社は貸借対照表と損益計算書)を公告する義務があります。
これを「決算公告」と呼びます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 株式会社(有価証券報告書を提出する会社を除く)。 特例有限会社・合同会社・合資会社・合名会社には義務がありません |
| 時期 | 定時株主総会の終結後、遅滞なく。具体的な日数の定めはありません |
| 公告する書類 | 貸借対照表。資本金5億円以上または負債総額200億円以上の大会社は、損益計算書も必要です |
| 官報・日刊新聞紙の場合 | 「要旨」で足ります。 損益計算書を公告しない会社は、貸借対照表の要旨に当期純損益の金額を付記します |
| 電子公告の場合 | 貸借対照表の全文と注記を載せます |
大会社以外の株式会社には、損益計算書の公告義務はありません。
売上高や売上原価、役員報酬といった数字は、決算公告では出ません。
公告の中心は貸借対照表です。
実態と過料の定め
東京商工リサーチ(TSR)の2022年「官報」決算公告調査によると、公告方法を官報としている株式会社は約8割(推計217万9,325社)です。
このうち2022年に官報で決算公告をしたのは4万214社で、割合は1.8%でした。
日刊新聞紙や電子公告を公告方法にしている会社もあるため、官報で見つからないことが「まったくしていない」を意味するとは限りません。
ただし、義務が十分に守られていない実態は確かです。
会社法976条は、公告を怠った場合などに、取締役や監査役など個人に100万円以下の過料を科すと定めています。
TSRは、決算公告率が低い背景として、過料の適用がほぼないことが大きいと分析しています。
しかし、適用がほぼないことは、義務がなくなったことを意味しません。
公告をしていない状態は、法律上の義務が果たされていない状態であることは認識してください。
逆に官報に公告している会社は法律を遵守している異なります。
官報はネットで閲覧できますので、毎日多くの企業が広告を行っているのが分かります。(全体で見ると僅かですが)
定款を「作っただけ」にしない|公告方法の条文の見方
定款は会社の基本ルールです。
公告方法は、会社法939条により、官報・日刊新聞紙・電子公告のいずれかを定款で定めることができます。
公告方法の記載は定款の絶対的記載事項ではありませんが、ほとんどの定款に記載されています。
定款に定めがない会社は官報とみなされ、日刊新聞紙や電子公告にしたい場合は、その旨を定款に定める必要があります。
条文の例
- 官報の場合:第○条 当会社の公告は、官報に掲載する方法により行う。
- 電子公告の場合:第○条 当会社の公告は、電子公告により行う。ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合は、官報に掲載する方法により行う。
はじめから官報前提になりやすい落とし穴
- 公告方法を意識しないまま定款ができあがると、官報を前提とする会社になりうる。
官報は掲載のたびに費用がかかる(毎回10万円程度)。 - 定款は書類が揃えば形になりますが、各条文の意味を説明できるかが大切です。
公告方法のように、設立後に毎年の費用や手間となる条文があります。 - ひな形でも、専門家が作成したものでも、定款の内容は経営者自身が把握しておくことが前提です。
専門家もきちんと条文の内容を説明してあげてください。 - 定款の条文と、履歴事項全部証明書の「公告をする方法」欄を見比べてください。
公告方法を変更する場合は、株主総会での定款変更と、変更登記が必要になります。
登記申請は司法書士の業務です。
創業時に確認しておきたい3点
- 公告方法として何を定款に定めるか(官報・電子公告など)。
決算公告を行う場合の費用と手間を知っておく。 - 電子公告にするなら、条文の書き方と、掲載するページのURLの登記。
- 決算公告が法律上の義務であることを知ったうえで、自社がどう対応するかを判断する。
方法別の費用と手間
決算公告を行う場合は、毎期、費用がかかります。
方法ごとの違いを知っておくための比較です。
金額は掲載内容で変わるため、実際は官報販売所の料金を確認してください。
| 方法 | 掲載する内容 | 費用の目安 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 官報 | 貸借対照表の要旨 | 7万5,000円〜15万円 | 申込から掲載まで1〜2週間程度かかることがある |
| 日刊新聞紙 | 貸借対照表の要旨 | 全国紙は最低でも50万円以上 | 官報より費用が高くなるのが一般的 |
| 電子公告 | 貸借対照表の全文と注記 | 自社サイトがあればほぼ0円 | 公告方法を電子公告とする定款の定めと、URLの登記が必要。掲載を5年間続ける |
| ウェブ公開 (会社法440条の措置) | 貸借対照表の内容 | 自社サイトがあればほぼ0円 | 官報等を公告方法とする会社が、5年間継続して公開する措置をとれば官報等への掲載に代えられる。 |
費用だけでなく、毎期の手間も含めて比べます。
ウェブでの公告は費用を抑えやすい一方、貸借対照表の全文を公開し、5年間掲載を続ける管理が必要になります。
貸借対照表は隠すものではない
「決算書は見せたくない」という気持ちは、理解できます。
しかし貸借対照表は、株式会社にとって公告することが法律上の前提になっている書類です。
隠すべき情報と、出してよい情報は分けて考えます。
債権者は決算書の閲覧を請求できる
会社法442条により、株式会社は計算書類(貸借対照表や損益計算書など)を本店に5年間備え置かなければなりません。
ところが株主と債権者は、会社の営業時間内であればいつでも、裁判所の許可なしにその閲覧を請求できます。
債権者とは、会社にお金を貸している人や、代金の支払いを待っている取引先などです。
決算公告で損益計算書が出なくても、計算書類そのものは債権者に対して「秘密」にできない仕組みです。
融資・補助金・許認可でも決算書は出す
- 金融機関:融資の申込みでは、決算書の提出を求められるのが一般的です。
- 補助金:決算書の提出を求める補助金が多くあります。
詳しくは補助金申請で決算書のどこがチェックされているかをご覧ください。 - 建設業許可:
毎事業年度終了後4か月以内に決算報告の届出が必要で、未提出だと更新や業種追加ができません(建設業法11条、東京都の案内)。
東京都は建設業法13条に基づき、許可申請書等を公衆の閲覧に供しています。
詳しくは建設業許可の決算変更届とは?未提出のリスクと正しい対処法をご覧ください。
守る情報と、出してよい情報
公告や提出の対象になるのは、貸借対照表をはじめとする決算書の骨格です。
取引先別の売上・粗利、原価の内訳、役員報酬、従業員別の給与などは、社内で管理する情報です。
決算公告でこれらが出るわけではありません。
貸借対照表を自分の言葉で説明できる状態にしておくことが、金融機関との対話の出発点になります。
貸借対照表の見方は経営者のためのBS読解術で解説しています。
決算書の作成や税務の判断は、税理士の業務です。
自分で確認するチェックリスト
- 自社は株式会社である(特例有限会社・合同会社は決算公告の対象外)
- 履歴事項全部証明書の「公告をする方法」欄を確認した
- 定款の公告方法の条文を確認し、履歴事項全部証明書と見比べた
- 直近の決算で決算公告をしているか、していないかを把握している
- 官報・電子公告・ウェブ公開の費用と手間を知っている
- 決算公告が法律上の義務であることを理解したうえで、自社の対応を判断している
- 貸借対照表を、金融機関や取引先に自分の言葉で説明できる
- 公告方法の変更が必要な場合は、司法書士などの専門家に相談する
よくある質問
Q1. 履歴事項全部証明書の「公告をする方法」は何を意味しますか?
会社が公告を行う方法として登記されている内容で、官報、日刊新聞紙、電子公告のいずれかが記載されます。
株式会社の決算公告も、この方法で行います。
Q2. 定款に公告方法の記載がないとどうなりますか?
定款に記載が無い場合は、官報で公告する会社とみなされます(会社法939条)。
日刊新聞紙や電子公告にしたい場合は、その旨を定款に定める必要があります。
Q3. 官報とは何ですか?
国立印刷局が発行する国の機関紙です。
法令の公布や、会社の公告など法令で定められた事項が掲載されます。会社の公告は、官報販売所に申し込んで掲載します。
Q4. 決算公告で売上や利益も公開されますか?
大会社以外の株式会社は損益計算書の公告義務がないため、売上高や原価は公開されません。
官報や日刊新聞紙で要旨を公告する場合は、貸借対照表の要旨に当期純損益の金額を付記します。
Q5. 取引先から決算書を見せてほしいと求められたら、断れますか?
任意の提出依頼であれば、目的と範囲を確認して判断できます。
ただし相手が債権者の場合は、会社法442条により営業時間内に計算書類の閲覧を請求する権利があるため、一律に断るのは適切とは限りません。
まとめ
定款は、作って終わりの書類ではありません。
貸借対照表は、隠すものではなく、株式会社にとって公告することが前提の書類です。
決算公告をしていない中小企業が多いのが実情ですが、義務であることを知らないまま経営するのと、知ったうえで判断するのとでは意味が違います。
まず次の3つを確認してください。
- 履歴事項全部証明書と定款を手元に用意し、「公告をする方法」を確認する。
- 決算公告が株式会社の法律上の義務であることと、自社が今どうなっているかを把握する。
- 貸借対照表を、金融機関や取引先に自分の言葉で説明できるようにしておく。
創業以来、定款変更を行っていない、ほとんど見覚えが無い方は、一度定款を見直してみてください。
公告以外でもいろいろと発見があると思いますので。
