新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、旧ものづくり補助金と旧新事業進出補助金を統合した新しい制度です。
2026年6月29日に公募が始まり、申請受付は9月30日(水)から、締切は10月30日(金)18:00厳守です。
統合後の第1回公募にあたります。
新設ではなく今回は統合ですので何とも言えませんが、補助金の初回は採択率が高くなる傾向がありますので、チャンスかもしれません。
この補助金には「革新的新製品・サービス枠」「新事業進出枠」「グローバル枠」の3つの枠があり、どの枠で申請するかで補助上限額も審査の視点も変わります。
本記事では、3枠の違いを丁寧に整理したうえで、採択後の交付申請・実績報告までを含めた実務を解説します。
1. 今回出すか、次回以降に備えるか
申請受付は9月30日から10月30日までの約1か月です。事業計画書の作成には相応の時間がかかるため、実質的な準備期間はさらに短くなります。
| 確認項目 | 今回申請できる状態 | 次回以降が現実的な状態 |
|---|---|---|
| 新規性の説明 | どの枠に該当するか、自社の取り組みの新規性を具体的に説明できる | 「新しいことをしたい」という段階で、対象事業の輪郭が固まっていない |
| 数値計画 | 付加価値額・給与支給総額の伸び率を、根拠とともに示せる | 財務や採算の見通しが立っていない |
| 見積・仕様 | 設備やシステムの仕様、金額が固まっている | 検討段階で、相見積を取れる状態にない |
| 資金繰り | 補助金は精算払いのため、立替資金の手当てがある | 立替資金や採択後の事務負担に対応する体制が未定 |
| 実施期間 | 革新的新製品・サービス枠は10か月、新事業進出枠・グローバル枠は14か月以内に事業を終えられる | 設備の納期や開発期間が実施期間に収まらない可能性がある |
この補助金は統合初回のため、採択率の実績はまだ公表されていません。
ただし、前身の制度では、ものづくり補助金の第21次公募で採択率34.1%、新事業進出補助金の第3回公募で採択率34.9%という結果となっています。
いずれも応募の3分の1程度が採択される水準であり、今回もおおむね同程度の傾向になると考えられます(統合による審査運用の変更で変動する可能性はあります)。
なお、次回(第2回)の日程は本記事の作成時点では公表されていません。
2. 3枠の全体像と選び方
もっとも重要なのが、この3枠のどれに該当するかの見極めです。
枠の選択を誤ると、審査の土俵に乗らず不採択に繋がりますので、丁寧に確認します。
枠ごとの基本情報
| 項目 | 革新的新製品・サービス枠 | 新事業進出枠 | グローバル枠 |
|---|---|---|---|
| 前身の制度 | ものづくり補助金 | 新事業進出補助金 | ものづくり補助金の一部を拡充 |
| 対象事業 | 革新的な新製品・新サービスの「開発」 | 既存事業と異なる新市場・高付加価値事業への「進出」 | 海外市場開拓に向けた国内輸出体制の強化 |
| 補助率 | 中小1/2(小規模・再生2/3) | 中小1/2(特例2/3) | 中小2/3 |
| 補助上限額(基本) | 750万〜2,500万円(従業員数による) | 2,500万〜7,000万円 | 7,000万円 |
| 補助上限額(賃上げ特例) | 850万〜3,500万円 | 9,000万円 | 9,000万円 |
| 事業実施期間 | 交付決定から10か月以内 | 交付決定から14か月以内 | 交付決定から14か月以内 |
| 対象経費の特徴 | 機械装置・システム構築費が必須 | 建物費が補助対象になる唯一の枠 | 海外旅費・通訳翻訳費も対象 |
どちらで申請するか:革新的新製品・サービス枠 vs 新事業進出枠
この2枠は、支援対象の考え方が根本的に異なります。
革新的新製品・サービス枠:
「開発」に焦点を当てています。
自社の技術やノウハウをベースに、これまでにない新製品・新サービスを作り出す取り組みが対象です。
既存の生産設備の効率化や、単なる設備の更新は対象になりにくく、「何が新しいのか」を技術面から具体的に説明できることが前提になります。
機械装置やシステム構築費が必須経費である点も、設備投資による開発を想定した制度設計を表しています。
新事業進出枠:
「進出」に焦点を当てています。
新製品・新サービス自体の革新性よりも、自社にとって新しい市場や新しい顧客層、高付加価値な事業領域に踏み出すことを重視します。
既に世の中にある製品・サービスであっても、自社が初めて手掛ける事業であれば対象になり得ます。
建物費が対象経費に含まれるのはこの枠の大きな特徴で、新規事業のための工場や店舗の取得・改修を伴う投資と相性が良い補助金です。
補助上限額が最大9,000万円と、3枠の中でもっとも大きい点も特徴です。
判断に迷う場合の目安は次のとおりです。
- 「自社の技術で、世の中にない製品・サービスを作る」→ 革新的新製品・サービス枠
- 「自社にとって新しい事業・新しい市場に踏み出す(製品・サービス自体の目新しさは問わない)」→ 新事業進出枠
- 「新しい事業のために工場・店舗などの建物投資が必要」→ 新事業進出枠(建物費が対象になるため)
- 「既存事業の生産性を上げたいだけで、新市場や新製品の開発を伴わない」→ どちらの枠にも該当しにくく、省力化投資補助金など別制度の検討が必要
なお、革新的新製品・サービス枠は小規模企業者・再生事業者の補助率が2/3である一方、新事業進出枠・グローバル枠は補助上限額そのものが大きくなっています。
自社の投資規模と、対象経費(特に建物費の要否)から逆算して枠を選ぶことも検討してください。
グローバル枠について
グローバル枠は、海外市場開拓に向けた国内の輸出体制強化を支援する枠です。
補助率は一律2/3で、他の2枠にはない海外旅費(補助対象経費の1/5以内、1人当たり上限50万円)や通訳・翻訳費(30万円税抜が目安)が対象経費に含まれる点が特徴です。
対象は、輸出拡大に向けた国内製造拠点の強化などに限られ、想定される申請者は他の2枠に比べて限られると見込まれます。
海外展開を具体的に計画している事業者以外は、まず革新的新製品・サービス枠または新事業進出枠での該当性を検討するのが現実的です。
詳細な要件は、該当する可能性がある場合に個別にご確認ください。
3. 統合前からの主な変更点
旧ものづくり補助金・旧新事業進出補助金と比べて、次のような変更が見られます。
- グローバル枠の拡充:
旧ものづくり補助金のグローバル市場開拓枠(上限3,000万円程度)から、最大7,000万円(賃上げ特例で9,000万円)へ大幅に引き上げられました。 - 賃上げ特例の体系化:
基本要件の賃上げ目標に加えて、より高い賃上げを達成した場合の補助上限額引き上げの仕組みが整理されました。 - 地域別最低賃金引き上げ特例の新設:
一定期間、地域別最低賃金の水準に近い賃金で雇用する従業員が全体の30%以上の月が3か月以上ある事業者に、補助率を引き上げる特例が新設されました。
統合初回のため、審査運用の細部は今後の公募回で明確になっていくと思われます。
4. 基本要件と返還リスク
全枠共通で、次の要件を満たす事業計画(3〜5年)を策定する必要があります。
- 付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)の年平均成長率+4.0%以上。
- 給与支給総額の年平均成長率+3.5%以上(自社で設定した目標値を達成する必要があります)。
- 事業場の最低賃金を、地域別最低賃金+30円以上に維持。
- 一般事業主行動計画の策定・公表。
- 職場環境整備(ライフデザイン相談、家事代行サービスの導入、既存制度の周知等から選択)。
- 金融機関からの資金調達を予定する場合は、金融機関の確認書を提出。
省力化投資補助金と同様に、給与支給総額や最低賃金の目標が未達の場合は、達成率に応じた返還義務が生じます。
賃上げ特例(合計+6.0%、最低賃金+50円)を適用して未達となった場合は、引き上げ分の全額返還を求められます。
採択を得るためだけに高い目標を掲げると、事業計画期間中の返還リスクを抱えることになるため、自社の収益計画と整合する水準で設計することが重要です。
5. 本当の関門は採択後:交付申請・実績報告
どの補助金でも採択後の実務負担は軽くありません。
実施期間は革新的新製品・サービス枠が交付決定から10か月以内、新事業進出枠・グローバル枠が14か月以内と定められており、採択発表後、交付申請から納品・検収・支払い・実績報告までをこの期間内に完了させる必要があります。
当事務所がこれまで見てきた採択後のつまずきは、次のような点です。
- 交付決定前の発注は補助対象外:
採択されても、交付決定日より前に契約・発注した経費は一切認められません。 - 証憑の管理負担:
見積書、契約書、納品書、支払いの証憑を体系的に保管し、実績報告時に整合性のある形で提出する必要があります。 - 資金繰り:
補助金は精算払いのため、設備投資額をいったん自己資金や借入で立て替える必要があります。 - 期間の短さ:
特に革新的新製品・サービス枠は10か月と短く、開発型の投資では計画から逆算したスケジュール管理が欠かせません。
交付申請・実績報告の書類作成は、事業計画書の作成以上に実務的な負担が大きく、この段階で対応が追いつかず事業を断念される事例も少なくありません。
補助金はコロナ禍での「給付金」とは根本的に違い、申請すれば支給されるものではありません。
獲得するためには相当の努力、覚悟が必要です。
審査をする事務局は「不正を絶対に許さない」としており、審査は厳格に進められます。
見積書ひとつとっても、細かな指示、制約がありますので、片手間の対応では審査に通りませんので、これも通常業務の一環として対応してください。
6. 審査・加点のポイント
書面審査では、補助対象事業としての適格性に加えて、経営戦略との整合性、事業の実現可能性、新規性・新市場性などが評価されます。
一定の基準を満たした事業者には、オンラインで15分程度の口頭審査が行われる場合があります。
加点項目は17種類とされており、次のような項目が含まれます。
- パートナーシップ構築宣言の公表
- くるみん認定・えるぼし認定
- 経営革新計画の承認
- 事業継続力強化計画
- DX認定
- 健康経営優良法人認定
- 技術情報管理認証制度
- 成長加速マッチングサービスへの登録
- アトツギ甲子園への出場
このうち経営革新計画の承認や事業継続力強化計画は、当事務所の許認可・事業承継の支援とあわせて準備を進められる項目です。
7. 業種別、申請枠の考え方
- 建設業:
新工法・新サービスの開発であれば革新的新製品・サービス枠、新規事業分野(例:リフォーム事業への新規参入、ICT施工サービスの展開)への進出であれば新事業進出枠が候補になります。
建物費が対象となる新事業進出枠は、新設する作業場・営業所を伴う投資と相性が良い枠です。 - 宅建業:
既存の仲介業から、不動産管理業や新分野の不動産サービスへ進出する場合は新事業進出枠が候補になります。
単なる店舗の建て替えや設備更新のみでは、対象になりにくい点に注意が必要です。 - サービス業:
新しい業態や新しい顧客層への展開は新事業進出枠、独自技術やシステムによる新サービス開発は革新的新製品・サービス枠が候補になります。
いずれの業種でも、「何が新しいのか」「なぜ自社が取り組む必然性があるのか」を具体的に言語化できるかが、枠の該当性と審査の両面で重要になります。
8. 専門家の選び方と、当事務所の伴走支援
この補助金では、事業計画は事業者自身が作成することが前提です。
外部の支援を受ける場合は、その関与を適切に開示することが求められます。
当事務所は、事業計画そのものを代わりに作るのではなく(アドバイスは行います)、枠の該当性判断、新規性の言語化、数値計画の整理、口頭審査の準備といった場面で支援する立場です。
一方、採択後の交付申請・実績報告は事務負担が大きく、専門家の支援が特に効果を発揮する場面です。
当事務所は認定経営革新等支援機関であり、行政書士として行政庁への提出書類作成を適法に行える立場から、応募段階から採択後まで一貫して伴走します。
| 段階 | 支援内容 |
|---|---|
| 応募前 | 枠の該当性診断、新規性の整理、数値計画の作成支援。事業計画のアドバイス、添削。 |
| 応募 | 事業計画書・添付書類の作成支援(電子申請の入力と提出は事業者ご自身) |
| 採択後 | 交付申請書類の作成と手続き、発注から支払いまでの証憑管理の助言、実績報告書類の作成 |
| その後 | 効果報告の準備、返還リスクの点検、次回公募への準備 |
省力化投資補助金と同様、この補助金でも「採択して終わり」ではなく、交付申請・実績報告・その後の報告まで見据えたご相談をお勧めします。
「自社はどの枠に該当するのか」「採択後の実務まで見据えて相談したい」という方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q1. 革新的新製品・サービス枠と新事業進出枠の両方に申請できますか。
該当する枠を1つに絞って申請します。
Q2. グローバル枠はどのような事業者が対象ですか。
海外市場開拓に向けた国内の輸出体制強化を行う事業者が対象です。
他の2枠に比べて対象となる事業者は限られると見込まれます。
Q3. 次回(第2回)の公募はいつ頃ですか。
本記事の作成時点では未公表です。
今後の発表をお待ちいただく必要があります。
Q4. 採択後の実務は自社だけで対応できますか。
制度上、原則は可能ですが、交付申請から実績報告までの期間が10〜14か月と短く、証憑管理や書類作成の負担は小さくありません。
社内の担当体制によっては、採択後の実務を専門家に依頼する事業者が少なくありません。
まとめ
- 締切は10月30日18:00厳守で、統合後の第1回公募です。
- 3枠は「開発」(革新的新製品・サービス枠)か「進出」(新事業進出枠)かで考え方が異なり、建物費の要否も判断材料になります。
- グローバル枠は輸出体制強化に特化した枠で、該当する事業者は限られると見込まれます。
- 過去の類似制度の採択率は3割台で推移しており、今回も同程度の採択率が見込まれます。
- 採択後の交付申請・実績報告まで見通して、計画を立てることが重要です。
