「新事業といっても、うちには特別なネタがない」 「どんな事業なら、補助金の対象として評価されるのか見当がつかない」

新事業進出補助金の検討を始めた経営者から、このような声をよくお聞きします。

2026年9月末、新事業進出補助金 第4回公募の採択案件が一覧で公表されました。
今回は、その一覧に載った採択508件の事業計画名を読み込み、どんな新事業が採択されているのかを分野別に整理しました。

先にお断りしておくと、この記事は「こうすれば採択される」という必勝法ではありません。
採択された新事業の実例に触れて、自社の強みをどんな新事業につなげられるかを考えるための材料です。

1. 第4回の採択結果と、この分析の前提

  • 対象:「新事業進出補助金 第4回公募 採択案件一覧」(2026年9月30日時点)に掲載された508件
  • 分析に使った情報:事業計画名(30字以内のタイトル)
  • 分類の方法:計画名に含まれる言葉から、事業分野をキーワードで判定しました

分類は機械的に判定しています。

制度の位置づけ(2026年9月時点で確認できた情報)

新事業進出補助金は、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を通じた、成長と賃上げを後押しする制度です。

なお、従来の新事業進出補助金は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」と統合され、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の「新事業進出枠」として募集開始されています。
今後の公募スケジュールや要件は変更されることがあるため、申請を検討される方は、必ず最新の公募要領で確認してください。

2. 採択された新事業の分野(全体像)

計画名から分野を判定した結果が、次の表です。

順位事業分野件数割合
1AI・DX・IT・SaaS79約16%
2製造・加工(素材・部品・設備)73約14%
3宿泊・民泊・サウナ・ヴィラ68約13%
4食品・飲食(製造・店舗)51約10%
5医療・介護・ヘルスケア・美容・ウェルネス49約10%
6観光・体験・エンタメ41約8%
7半導体・航空宇宙・EV等の先端ものづくり39約8%
8環境・リサイクル・再エネ24約5%
9物流・運送・整備・モビリティ23約5%
10教育・人材9約2%
11不動産・無人店舗6約1%
—その他・分類不能46約9%

ポイントは3つです。

  • AI・DX・ITが最多です。ただし、汎用的なAI活用ではなく、特定の業界に絞ったサービスが中心です。
  • ものづくり系(製造・加工と先端ものづくり)を合わせると、約22%です。
  • 宿泊と観光・体験を合わせると約21%で、IT系と並ぶ大きな分野です。

3. 分野別に見る、採択されている新事業の中身

ここからが本題です。
分野ごとに、実際の計画名を引用しながら、どんな新事業なのかを見ていきます。

(1)AI・DX・IT:「業界を絞った専用サービス」が中心

計画名の例:

  • 障害者就労支援特化型SaaS「(サービス名)」の構築と提供
  • 不登校支援事業者向けSaaS構築
  • Amazon出品者向け利益最適化SaaSの新規開発
  • 業界特化型クラウドERP「AI×宝飾DXプラットフォーム」
  • 動物病院のオンライン相談・診療・投薬を支えるシステム提供事業

共通する切り口:
「誰の、どの業務の課題を解決するか」が計画名から読み取れます。
汎用ツールではなく、業界・職種を特定した専用サービスが目立ちます。

(2)製造・先端ものづくり:「技術を成長市場に振り向ける」

計画名の例:

  • 半導体製造向け高品質・高性能バルブの設計・製造・販売事業
  • 精密加工技術で挑む半導体製造装置の真空コア部品の製造事業
  • 独自のバルジ成形技術を活用した航空機部品製造への新事業進出
  • 次世代EV車向けブレーキの加工、組立、塗装一貫生産体制構築
  • 金属3D造形による次世代型製造モデルを確立、新規事業立上げ

共通する切り口:
「どの技術を、どの市場(半導体・航空機・EVなど)に向けるか」が明確です。
技術名と市場名の組み合わせが、計画名になっています。

(3)宿泊・観光・体験:「ターゲットを絞った、地域資源型の宿泊」

計画名の例:

  • 空き家再生・大人数対応サウナ付民泊創出事業
  • 老朽化ホテル再生! 蓼科高付加価値グランピング事業
  • 三世代バリアフリー対応ラグジュアリーヴィラ宿泊事業
  • DogID技術による愛犬同伴旅特化型宿泊予約プラットフォーム
  • 古民家と地域資源を活用した体験型宿泊事業の展開

共通する切り口:
単なる「宿を始める」ではなく、誰向けか(三世代、愛犬同伴、大人数)と、何で差別化するか(サウナ、古民家、地域資源)が示されています。
空き家・古民家・老朽ホテルなど、既存の建物や遊休資産の再生も多く見られます。

(4)食品・飲食:「製造を伴う高付加価値化」

計画名の例:

  • 冷凍ミールキット製造事業
  • 自社栽培果実を活用した高付加価値クラフトジェラート事業
  • 十勝の酪農家による自牧場産無添加コンビーフ缶詰製造への進出
  • 川上・川下の課題を解決する中華料理店向け川魚加工事業への進出

共通する切り口:
飲食店の開業よりも、食品の製造・加工に踏み込む計画が多く見られます。
「自社栽培」「無添加」「高付加価値」など、素材や品質の裏付けを打ち出しています。

(5)医療・ヘルスケア・美容:「対象を絞ったウェルネス」

計画名の例:

  • 美容と健康を融合した女性専用個室ウェルネス事業
  • トロン手足温浴による高齢者の健康増進・介護予防事業
  • 高齢者向け認知機能トレーニング支援事業の開始
  • AI画像解析技術を活用したパーソナル・キッズヘルスケア事業

共通する切り口:
「女性専用」「高齢者向け」「キッズ」など、対象者を明確に限定しています。
AIなどの技術と、健康・介護の課題を組み合わせる例もあります。

(6)環境・リサイクル:「廃棄物を資源に変える」

計画名の例:

  • 廃石膏ボードの水平リサイクル事業への挑戦
  • 大量廃棄時代に対応する太陽光パネル高付加価値再資源化事業
  • レアメタル廃材の分析・濃縮による資源再利用原料製造事業
  • 木質バイオマス燃料チップ製造・供給事業への進出

共通する切り口:
「何を、どんな資源にするか」が具体的です。
太陽光パネルや廃石膏ボードなど、今後の廃棄量増加が見込まれる素材、環境に優しいものが選ばれています。

(7)物流・整備:「物流の課題に応える専門サービス」

計画名の例:

  • 「大型商用車特化型認証整備工場」新設による自動車整備業進出
  • 物流を止めない土日祝対応型大型車ワンストップ民間車検事業
  • 運送一体型3PL倉庫事業

共通する切り口:
物流業界の人手不足・稼働継続といった課題を起点に、対象車両(大型車)やサービス時間(土日祝)を絞った専門性が打ち出されています。

4. 計画名に共通する特徴

508件の計画名から、次のような傾向が読み取れます。

特徴該当件数の目安
「〜向け」「業界」など、対象顧客を明示約18%
既存の技術・ノウハウ・強みを活かす言い回し(「活かし」「活用」「応用」など)約18%
地域・地元・地産などの地域性約18%
高付加価値・高品質・高級・ラグジュアリー約17%
複合・一体・一貫・ワンストップ約9%
課題解決・人手不足・省力化・自動化約8%

いずれも、キーワードを含む計画名の概算で、重複あり。

計画名を決めるときに以下の型を参考にしてください。

〇〇(自社の強み)を活かした、△△(対象顧客)向けの□□(新事業)

5. 自社の新事業を考える5つの問い

最後に、自社の新事業を考えるための質問を列挙します。

  1. 誰の、どんな課題を解決できますか? (顧客・取引先・地域の困りごとを書き出してみましょう)
  2. 使っていない資産はありませんか? (建物・土地・設備・技術・人材)
  3. 成長している分野と、自社の強みの接点はどこですか? (先端ものづくり、ヘルスケア、環境、観光など)
  4. 「誰に、何を提供する事業か」を一文で言えますか?
  5. 30字で、事業計画名を書いてみてください。 (「〇〇を活かした△△向けの□□事業」の型を使ってみましょう)

5つの問いのうち、答えに詰まるものがあれば、そこが計画づくりの課題です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 本業と関係のない事業でも、対象になりますか?

新事業進出補助金は、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援する制度です。
ただし、採択案件の計画名を見ると、既存の技術・設備・ノウハウ・遊休資産を活かす内容が多く見られます。
対象になるかどうかは、最新の公募要領の要件で確認してください。

Q2. 計画名は、どのように付ければよいですか?

採択された計画名には、対象顧客・自社の強み・事業内容を盛り込んだものが多く見られます。
「〇〇を活かした△△向けの□□事業」の型が、参考になります。
ただし、計画名は事業計画書の要約にすぎません。中身の整合性が重要です。

Q3. AIやDXの計画でないと、採択されにくいですか?

今回の分析では、AI・DX・ITが最多分野でしたが、ものづくり、宿泊、食品、ヘルスケアなど、幅広い分野が採択されています。
分野そのものより、「誰のどんな課題を解決するか」の具体性が重要だと考えられます。
ただし、申請件数がわからないため、採択率の比較はできません。

Q4. 採択された後に、しなければならないことは何ですか?

一般に、補助金は採択後に交付申請、事業の実施、実績報告といった手続きを経て、支払いを受ける仕組みです。
実績報告にはかなり多くの提出書類があり、期限が定められており、遅れると交付が取り消される可能性があります。
具体的な手続きは、最新の公募要領・交付規程で確認してください。

Q5. 認定支援機関に相談するメリットは何ですか?

事業計画の整理や、要件(付加価値額の増加、賃上げなど)の確認、資金調達の検討などを、専門家と進められる点です。
当補助金の準備は大変ですので、負担も大きく、時間も要します。
時間が取れない、補助金申請に慣れていない場合は、ぜひとも認定支援機関や行政書士などの専門家に相談してみてください。
ただし、相談すれば必ず採択されるわけではありません。