「後継者のいない同業者から、会社を引き継いでほしいと頼まれた」
「建設部門を子会社に切り出したい」

建設業界でも、M&Aや事業承継は珍しい話ではなくなりました。

ところが実務では、契約条件や登記の段取りに目が向き、建設業許可の手続きが後回しになるケースが少なくありません。
手続きの順番を誤ると、許可が途切れ、500万円以上の工事(建築一式工事は1,500万円以上)を請け負えない期間が生じるおそれがあります。

この記事では、東京都知事許可を前提に、許可を空白なく引き継ぐための「事前認可」の仕組みとスケジュールを解説します。
あわせて、中小企業のM&Aで多い「株式譲渡」で見落としやすい落とし穴も取り上げます。

この記事の要点

  • 事業譲渡・合併・分割で許可を引き継ぐには、承継日より前に「事前認可」を受ける必要がある
  • 東京都では、認可申請は承継予定日の前日の2か月前から25日前まで。事前相談は契約書を固める前に行う
  • 株式譲渡は認可不要だが、社長の退任で経管・専技が欠け、許可要件を失うおそれがある

※本記事は東京都知事許可を前提としています。国土交通大臣許可や他の道府県の許可では、取扱いが異なる場合があります。

1. なぜ「事前認可」が必要なのか

以前は「廃業して取り直す」しかなかった

かつての建設業法では、事業譲渡・合併・分割をする場合、それまでの許可を廃業し、承継する側で新たに許可を取り直す必要がありました。
その結果、廃業日から新たな許可日までの間に、契約額500万円以上(建築一式工事においては1,500万円以上)の建設業を営むことのできない空白期間が生じるという不利益がありました。

令和2年10月から「地位の承継」が可能に

この問題を解消するため、令和2年10月1日に承継の制度が新設されました(建設業法第17条の2・第17条の3)。
事業承継を行う場合はあらかじめ事前の認可を受けること、相続の場合は死亡後30日以内に相続の認可を受けることで、空白期間を生じることなく、建設業者としての地位を引き継げます。

何が引き継がれるのか

「建設業者としての地位」とは、許可を受けたことで発生する権利と義務の全体を指します。

引き継がれるもの引き継がれないもの
許可(業種・一般/特定)売り手の会社が受けた罰則
許可番号(許可業者同士なら選択可)
過去の監督処分
経営事項審査(経審)の結果

承継人は被承継人の受けた監督処分や経営事項審査の結果についても、当然に承継するとされています。
良い実績だけでなく、処分歴も引き継ぐ点は、買い手として必ず確認すべきポイントです。

なお、承継後の許可の有効期間は、承継の日の翌日から5年となります。

2. M&Aの手法別:認可が必要か・不要か

手法事前認可ポイント
事業譲渡必要建設業に関する事業の全部の譲渡が対象。個人事業主の法人成りも含む
合併(吸収・新設)必要消滅する会社の許可を、存続会社・新設会社が承継
会社分割必要建設業に関する事業の全部を分割で承継させる場合が対象
相続(個人事業主)必要(死亡後30日以内)申請後、処分が出るまでは相続人に許可があるものとみなされる
株式譲渡不要会社そのものは変わらない。ただし役員・経管・専技の変更に注意

中小企業のM&Aでは、手続きが比較的シンプルな株式譲渡が選ばれることが多くあります。
「認可が要らないから安心」と考えがちですが、そこに別の落とし穴があります。

3. 申請スケジュール:「事前」とは、いつまでか

東京都の受付期間

東京都の手引きでは、事業承継の認可について次のように定められています。

時期やること
承継方法を決める書類(契約書など)を確定する前東京都への事前相談
承継予定日の前日の2か月前〜25日前認可申請(窓口審査)
審査期間申請日と承継予定日の間に開庁日が25日必要
承継予定日の1週間程度前認可通知書が郵送される(許可通知書を兼ねる)
承継日建設業者としての地位を承継
承継日から2週間〜30日以内常勤性の確認資料などの「後日提出書類」を提出

東京都は、事前相談には十分に時間を取るよう求めています。
必ず承継方法等書類を確定する前に御相談くださいとされている点が重要です。

つまり、「契約書にサインしてから行政書士に相談する」では遅い場合があるということです。

見落としやすい3つの注意点

① 開庁日25日は「カレンダー暦日25日間」ではない
土日祝日と年末年始は数えないため、実際のカレンダーでは5週間以上かかります。
年末年始や大型連休をまたぐ場合は、さらに余裕が必要です。

② 許可の有効期限と重ならないようにする
承継予定日は、売り手・買い手それぞれの許可の有効期間が満了する日の30日前より前の日であることが原則です。
更新時期が近い場合は、更新と承継のどちらを先にするかを含めて計画します。

③ クロージング日がずれると、認可が取り消される
M&Aでは、クロージング(株式や事業の引渡し)の日程が延びることは珍しくありません。
しかし、承継予定日に承継が行われないことなどは、認可の拒否や取消しの理由とされています。
さらに、承継予定日を過ぎると申請の取下げもできません。
日程変更の可能性がある場合は、早めに行政庁へ相談することが欠かせません。

4. 認可が受けられない・承継できないケース

業種の「一部だけ」は承継できない

認可の対象は、許可業種の全部の承継です。
承継しない業種がある場合は、先に一部廃業を行ってくださいとされています。

同じ業種で「一般」と「特定」がぶつかる場合

たとえば、売り手が鉄筋工事業の「一般」、買い手が同じ鉄筋工事業の「特定」を持っている場合、そのままでは承継できません。
どちらかの業種を事前に一部廃業する必要があります。

買い手が承継予定日の時点で許可要件を満たしていない

認可の審査では、承継する側が許可要件を備えていることが必要です。
経営業務の管理責任者(経管)、営業所技術者等(専技)、財産的基礎、社会保険の加入などを、承継予定日の時点で満たしている必要があります。

また、経管・専技・令3条の使用人(支店長など)は、承継予定日(またはその前日)まで途切れずに常勤している必要があります。
専技は、原則として承継予定日以降も、業種ごとに同じ人が引き続き常勤していなければなりません。

他県の許可が絡むと「大臣認可」になる

東京都で認可申請できるのは、承継者(相続人)及び被承継者(被相続人)の全てが東京都知事許可業者であるか、又は建設業を営む営業所が東京都内にのみある場合に限ります。
どちらか一方でも他県の許可を持っている場合は、国土交通大臣の認可(地方整備局への申請)になります。

承継後に「売り手の決算報告」を出す義務がある

承継した側は、売り手の建設業者としての地位を引き継ぐため、被承継者の決算報告を提出する義務を負います。
売り手が決算変更届を出していなかった場合、その作成・提出の負担も買い手にのしかかります。

5. 【実務の視点】株式譲渡で許可を失うパターン

株式譲渡では、会社も許可もそのまま

株式譲渡は、会社の持ち主(株主)が変わるだけで、会社そのもの(法人格)は変わりません。
そのため、許可は会社に残り、事前認可の手続きは不要です。

ただし、株式譲渡に伴って役員が入れ替わる場合、変更届が必要です。

東京都では、経営業務の管理責任者、営業所技術者等、令第3条の使用人の変更は、原則として変更後2週間以内、役員の変更は原則として30日以内とされています。

よくあるケース:社長の退任で経管・専技がいなくなる

実務でよく見られるのは、次のようなケースです(以下は一般化した例です)。

内装工事会社A社の株式を、同業のB社が取得した。
A社の社長は、経管と専技を1人で兼ねていたが、株式の引渡しと同時に退任した。
B社から送り込んだ新しい役員は、経管として必要な経営経験を証明する資料がそろわなかった。
結果として、A社は許可要件を欠く状態になってしまった。

株式譲渡では「許可は会社に残る」ことに安心してしまい、人の要件が見落とされがちです。
許可は会社に残っていても、要件を満たす人がいなければ、許可を維持できません。

防ぐためのポイント

  • クロージングの日に、経管・専技の後任が切れ目なく常勤している体制を組む
    後任が決まらない場合は、売り手の社長に一定期間、常勤の役員として残ってもらうことも選択肢です。
    ただし、非常勤の顧問などに退くと、経管の要件を満たさない点に注意が必要です。
  • 後任の常勤性の資料を事前に確認する
    東京都は令和8年7月から常勤性の確認書類の取扱いを変更しています。
    後任について、どの資料で常勤性を示せるかを事前に確認します。
  • 許可の維持を、M&Aの条件として検討する
    契約書にどう盛り込むかは、M&Aに関わる弁護士やM&A支援者と相談してください。

6. チェックリスト:M&Aの検討を始めたら確認すること

売り手の許可の状況

  • 許可番号、業種、一般/特定の区分、許可の有効期限
  • 経管・専技は誰か。M&A後も常勤を続けるか
  • 決算変更届・変更届に未提出がないか
  • 過去に監督処分を受けていないか

手法とスケジュール

  • M&Aの手法は、株式譲渡か、事業譲渡・合併・分割か
  • 承継予定日から逆算して、事前相談の時期を決めたか
  • 承継予定日が、双方の許可の有効期限の30日前より前か
  • 他県の許可や、都外の営業所が絡まないか

買い手の体制

  • 承継予定日の時点で、経管・専技・財産的基礎・社会保険の要件を満たすか
  • 同じ業種で「一般」と「特定」がぶつからないか
  • 承継しない業種を一部廃業する必要がないか

よくある質問(FAQ)

Q1. 建設業許可は、事業譲渡で引き継げますか?
A. 事前に認可を受ければ、空白期間なく引き継げます。
認可を受けずに事業譲渡をした場合は、買い手が新たに許可を取り直す必要があり、その間は500万円以上の工事を請け負えません。

Q2. 株式譲渡でも、建設業許可の認可は必要ですか?
A. 必要ありません。
ただし、経管や専技が退任すると許可要件を欠くおそれがあるため、変更届の期限(原則2週間以内)と後任の確保に注意が必要です。

Q3. 認可申請は、いつまでに出せばよいですか?
A. 東京都知事許可の場合、承継予定日の前日の2か月前から25日前までです。
事前相談は、契約書などを確定する前に行う必要があります。

Q4. 一部の業種だけを譲渡することはできますか?
A. できません。
承継しない業種がある場合は、事前にその業種の一部廃業が必要です。

Q5. 個人事業主の建設業者が亡くなった場合、許可はどうなりますか?
A. 死亡後30日以内に相続の認可を申請すれば、相続人が許可を引き継げます。
申請後、処分が出るまでの間は、相続人が許可を受けているものとみなされます。

まとめ:M&Aを考え始めたら、契約の前に許可の確認を

  • 事業譲渡・合併・分割で許可を引き継ぐには、承継日より前の事前認可が必要
  • 東京都では、申請は承継予定日の前日の2か月前から25日前まで。事前相談は契約書の確定前
  • 株式譲渡は認可不要でも、経管・専技の退任で許可を失うおそれがある
  • クロージング日の変更や、売り手の届出漏れも、許可に影響する

M&Aは、条件交渉や資金調達に目が向きがちです。
M&A支援者、弁護士などは許認可については知見がない場合が多く、見落とされがちですのでお気を付けください。

建設会社の場合、許可が途切れれば、そもそも事業を続けられません。
M&Aの検討を始めた段階で、許可の状況と手続きのスケジュールを確認しておくことが、失敗を防ぐ近道です。

行政書士飯島事務所にご相談ください

当事務所は、行政書士として建設業許可の手続きを行うとともに、認定経営革新等支援機関として中小企業のM&A・事業承継を支援しています。

  • M&Aの手法ごとに、建設業許可への影響を整理します
  • 承継予定日から逆算した手続きスケジュールを作成します
  • 東京都への事前相談の準備と、認可申請書類の作成を行います
  • 株式譲渡の場合の、経管・専技の後任体制と変更届を確認します

※契約書の作成・税務・登記については、提携の弁護士・税理士・司法書士と連携して対応します。

スケジュールに余裕があるほど、選べる手段が増えます。
「まだ相手も決まっていない」段階でのご相談も歓迎です。

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